劇場公開日 2014年8月22日

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プロミスト・ランド(2012) : 映画評論・批評

2014年8月6日更新

2014年8月22日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

エネルギー問題に揺れる田舎町を見つめる真っさらな眼差し

広大なアメリカの大地に眠るシェールガスは、国家の経済や財政に多大な恩恵をもたらす天然エネルギーだ。しかし、さまざまな報道や2010年のドキュメンタリー映画「ガスランド」が指摘しているように、水質汚染などの環境面の弊害が懸念されている。マット・デイモンジョン・クラシンスキーが製作、脚本、出演を兼任した本作は、そんな現在進行形の社会問題を扱ったヒューマン・ドラマである。

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デイモン扮する主人公スティーヴは、大手エネルギー企業の幹部候補生。シェールガスの埋蔵量が豊富な農村地帯に乗り込んだ彼は、地元の牧場主らを回って採掘権の確保を試みるが、住民投票を呼びかける老教師や切れ者の環境活動家に行く手を阻まれるという物語だ。しかしこの映画は賛成派、反対派のどちらにつくわけでもなく、独自の主張を声高に叫んだりしない。シェールガス問題はメインテーマではなく、あくまで背景であり、他のあらゆる事象に置き換えることが可能。要するに本作は、悩める主人公の姿を通して「ちょっと胸に手をあてて、本当に大切なことを考えてみよう」と観客に促す啓蒙的なドラマなのだ。

しかも説教臭くなく、あざとさのようなものが一切感じられない。脚本も実によく練られているが、慌ただしく奔走する主人公、田舎町の牧歌的な生活風景、水と緑に恵まれた自然や動物たちを分け隔てなく見つめる視線が、驚くほどみずみずしい。それを象徴するのが、さりげなくも繰り返し挿入される緩やかな空撮ショットだ。すなわち超自然的な“神の目”というべき真っさらな眼差しを交え、この物語をより大きな視点で、より清らかな視点で語ろうとしたガス・バン・サント監督の意図がうかがえる。

そう思うと、採掘の賛否を問う住民投票が行われるクライマックス直前、会場の体育館にひょっこり現れる少女は、神がつかわした天使なのかもしれない。時価総額90億ドルの巨大企業のエリート社員と、たった25セントのレモネードを売る名もなき少女のほんの数十秒間のやりとりに、この映画の素朴な美点が凝縮されている。そしてエンドロールの俯瞰ショットでは、先述した“神の目”はいつの間にか私たち観客自身の眼差しにすり替わり、えも言われぬ感動を覚えずにいられないのだ。

高橋諭治

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