「血塗られた心の闘いを、あくまで美しく可視化」イノセント・ガーデン cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
血塗られた心の闘いを、あくまで美しく可視化
昔話や児童文学を足がかりに、思春期について深い考察を残した臨床心理学の大家・河合隼雄氏がこの映画を観たならば、きっと拍手喝采したに違いない。静謐にして壮絶なクライマックスに引きずり込まれながら、ふとそんな考えが浮かんだ。
子どもが大人に、少女が女性となっていく思春期は、忘れっぽい大人が思うより遥かに過酷だ。「自分とは何者なのか」をめぐる、生きるか死ぬか、やるかやられるかの葛藤と闘いの日々。瀕死の傷を負っても、朝になれば傷はかりそめに癒え、闘いは終わらない。押しつぶされそうな怒涛の日々は続く。そんな時期を、本作はあくまで美しく、端正に描く。あれだけ人が死に、血しぶきがあがっても、死臭は漂わない。それは、巷の十代が今まさにあちこちで繰り広げている、目には見えない地獄絵図なのかもしれない。
18歳のヒロイン・インディアは、「自分は特別である」「自分はおかしい・異常なのかもしれない」という両極にして表裏一体の思いに囚われている。父を失い孤独を深める彼女の前に現れる、謎めいた叔父。果たして彼は、突破口であり救世主なのか?
互いに共通点を見出していく彼ら。絡みつくような連弾のシーンはぞくりとさせられる。そんな2人の決定的な違いは、危険な深みに留まるか、分け入りつつも駆け抜けようとするのか、ではないだろうか。彼は闇に潜り後継者を待ち望んだが、彼女はそれを望まなかったのだ。
父に教えられた狩りの手腕を携え、数多の障害をなぎ倒しながら疾走する彼女に、戦慄しながらも微かな希望を見た。
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