「雨の公園に行きたくなりました。」言の葉の庭 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
雨の公園に行きたくなりました。
ビールかワイン持って。
って、新宿御苑はダメですね。作品中にも2回、作品終了後のテロップでもダメ出しがありました。近くの公園でもいいかな。
他の方も絶賛されていますが、とにかく背景が綺麗。
雨をはじめとする、”水”の描写、そこに絡む木々、葉、その他もろもろ。
駅名が出なくても、千駄ヶ谷だ、あの場所だとわかる細かさ。
そうか、写真をトレ―スして制作されたのか。
だったら写真を使えばという意見もあるけど、写真や実写よりも柔らかさが加わっており、よい雰囲気を醸し出しています。
でも、ドラマとして観ると深みが足りません。
『言の葉の庭』とあるので、『舟を編む』のように言葉にこだわり抜いた作品かと思っていましたが、それほど研ぎ澄まされた言葉が紡がれているわけでもありません。せっかく、万葉集とか引き合いに出しているのに、肩透かし。
よくある、ギャルでも使いそうな台詞でつないでいきます。しかもそんな陳腐な台詞で状況説明しちゃう。もうちょっと言葉使い、台詞を厳選してほしかったです。
”文学”に例えているレビューも読みましたが、『世界文学全集』等に収められている純文学には足元にも及びません。わかりやすい、読み捨てされる量産系のノベルズといったところでしょうか。
「孤悲」物語とは、良い所に目をつけられたと拍手を送りたいです。でも、それをこういう設定なら二人とも孤独だよね、悲しいよねと思わせるのではなく、できれば、台詞とか、人物の動き・表情で孤独感と悲しみをみせてほしかったです。
シチュエーションが問題なんではないんです。あり得ない設定に”実”を見せるのが、”文学””演劇””映画”なのだから。あり得ない設定なんて歌舞伎にはごまんとあるけど、それを”実”に見せる業を持っているから”芸術”として今も上演され続けています。
安易に、吟味もしていない言葉で、行間を読むような余韻もなく、ただ、書きまくった、ただ漏れさせたモノローグがね、問題なのです。
感情を爆発させてメデタシっていう安易な発想が問題なのです。
他人にわかってもらえるように客観的視点を加味して”芸術”に昇華させておらず、ただ、自分がこう思うのだからこれでいいじゃん的な主観のみの自己満足になっているところが中2病なのです。
年上の女性と、少年の恋物語。
孤独を抱えた人々の再生物語。
ありふれた設定とはいえ、何度も繰り返し取り上げられた設定。心の琴線に触れる設定。
雨の日だけの、不確実な逢瀬。
意味ありげに、暗号のように残される短歌。しかも、万葉集。万葉の言葉独特のまろやかさと同時に染み渡る力強さ・土臭さ。短歌は短歌でも、古今和歌集や百人一首でもなく、ましてや現代の作でもない。
このシチュエーションだけでもそそられます。(私だけか?)
でも、その思い付きを並べただけで終わっちゃった。ここから、さらに昇華させた物語を味わえると思っていたのに、肩透かし。
雨の降る東屋で、人から隠れるようにして、その公園では禁止されている飲酒をする女性。女性の就いている職種を考えると、公共のルールも守れない時点で、人間としてアウトと思ってしまいます。そりゃ、仕事場でうまくいかないのも当たり前。この映画では、うまくいかないから→飲酒としているけれど、ルール破っている時点で、感情が行動を通して駄々洩れ。「15歳から~」という台詞があるけれど、そんな人が、ただ〇〇という職権権力かさに着て、リアル15歳を指導しようとしたら、そりゃ反発食うわ。高校なら15歳~18歳までいるけれど、年下に偉ぶられてもね、と思います。
後半明かされる女性の設定なら、殻を破れないという設定なら、もっと行動面でも、きちんと殻を示してほしかったです。部屋に引きこもって飲酒するとか。”壊れている”ことの描き方が安易。説得力ありません。共感できない。ルール違反している時点で、殻破っているじゃないと思ってしまう。
女性に共感できないから、少年がその女性に憧れるという点にも共感できない。
「孤悲」。孤独な恋を描いた小説というと、私が思い浮かべるのは、夏目漱石さんの『こころ』。井上靖さんの作品とか。他にも、他にも。それらと比べると、この映画の二人の関係は傷の舐めあい。う~ん、なんだかなあと思ってしまいます。
せっかく、本当に必要な言葉のみを削りに削って残して作った短歌の”万葉集”を持ちだしているのだから、言葉・脚本も推敲に推敲を重ねてほしかったです。
モノローグ形式だって『オッドトーマス~』みたいに成功している映画だってありますし。
この映像なら、いっそのこと、台詞なしでみせるというのもありかもしれないのでは?公園は新宿御苑じゃない公園、飲酒可なところにしてとか。
あ、でも、この映画の、人間を描写するアニメーションでは表現しきれないかもしれません。
背景を、写真をトレースして作成されたのなら、
人物も、モーションキャプチャーをトレースして制作したらいいのかもしれません。
とはいえ、この作品って、α波が入っているイ―ジ―リスニング系。
思いっきり仕事でパンパンになった頭と心を洗い流してくれる映画なのかしら。雨がモチーフだけに。
クールダウンには、この位のわかりやすさ・展開でいいかなと思います。受けた傷も一緒に舐めあって癒してくれそうです。