「誰がためにゴジラは鳴く」GODZILLA ゴジラ 13番目の猿さんの映画レビュー(感想・評価)
誰がためにゴジラは鳴く
エメリッヒ版ゴジラの悪夢から早16年、エドワーズ版を鑑賞した後ちょいヲタの上司に感想をご報告。
俺「ゴジラ観に行きましたよ。良かったです。人類の持ちうる技術力と脚本力と資本力を駆使して作った、現時点で作れる最高のゴジラ映画だと思います。」
上司「前回のが酷かったけど今回は大丈夫なんだ?ゴジラはやっぱり外人には理解できないって話があったけどさ」
俺「確かに前回の件があるから結構な不安があったんですけれど。でも酷い酷いと言われてるエメリッヒ版のゴジラですが、日本版のゴジラよりも興行収入は上なんですけどね。エメリッヒの一部のマニア受けでしかないゴジラを一般向けにしたかったという意図は成功してるんですよね」
上司「ああ、そうなんだ?」
俺「それに外国人にはゴジラは理解できないという評価もやや乱暴なテンプレかと思いますね。総合格闘家ドン・フライはファイナルウォーズに出演した際、インタビューでゴジラとは人間への自然からの戒めであると語っています。日本人しかゴジラを理解できないというのはちょっとした傲りではないかと」
上司「まぁ前のゴジラ観て海外のゴジラファンも怒ってたって話だからな」
俺「そうです。それに日本人が正確にゴジラを理解しているかというとそれも疑問です。ゴジラのプロデューサーだって核の悲劇を訴えていたのは一作目だけだと言ってますし、なにより昭和ゴジラなんてもう子供向けのヒーローものですからね」
上司「シェーしたり空飛んだりな(笑)」
俺「なにより、ゴジラというコンテンツからそっぽを向いたのは他でもない僕ら日本人です。ミレニアムシリーズは観客動員数がみるみる落ちて、最後の方なんてとっとこハム太郎と同時上映の抱き合わせだったわけですから。ファイナルウォーズなんて身内の日本人が作ったから許してもらえてるレベルですよ。あんなの海外が作ってたら"ゴクウとゴジラの区別が付かないのかガイジンは”とか突っ込まれてます」
上司「そりゃひどいな(苦笑)。ところで気になってたんだけどさ、予告ではビキニ環礁での核実験はゴジラを殺すためだった、要するにアメリカの核実験は悪くないって話になってるように見えるんだけど?そこは大丈夫なの?」
俺「そういう見方もありますが、僕はそこから見えてくるのはアメリカなりの畏敬すべきゴジラの存在だと思います。核を使っても倒せないというのはゴジラには人間のコントロールなど及ばないのだということの象徴かなと。核攻撃されたところで大して気にもしないし移動時に建物を破壊し津波を起こしおそらく多くの犠牲者を出しているけれど意に介さない、それは自然災害そのものとしての描写じゃないでしょうか。日本版は自然に神格を与えたような感性のゴジラですが、エドワーズ版では神格のない自然といったところですね」
上司「そっかぁ、でもネットだとゴジラの出番が少なすぎって話じゃん?おすぎかピーコもそこ突っ込んでたし」
俺「そこは確かに短いです。ライバル怪獣の方が遙かに登場時間は長いくらいです。ただこれは……推測なんですが54年版の一作目を意識したんじゃないかなとも思うんですよね。一作目も人間ドラマがかなり長いですし多分ゴジラの登場シーンも今回以上に短かったんですよ。でもその分だけ得体の知れない「何か」を演出するには効果的だったわけです。今回は人間ドラマでタメを作って得体の知れない新怪獣ムートーの存在を煽り、そのムートーの存在でタメを作ってさらに得体の知れないゴジラの存在を煽るという二段法で演出を効果的に作っていると思います。バランスが難しいんですよそこは。同じ怪獣映画のパシフィック・リムは終盤なんて食傷気味になりませんでした?海底でのバトルの時なんてもうええわって思いましたよ。多分今回も出しすぎたら出しすぎたらで「ゴジラのことが分かってない」という批判が出てたんじゃないでしょうか」
上司「じゃあ結論としては高評価なわけだ?」
俺「ええゴジラ映画としては星5つです。けれど……映画としては星3,5ですかね」
上司「ひっかかる言い方だな」
俺「なんというか肝心のタメを作る人間ドラマがしょぼいというか……主人公の父親のブライアン・クランストンはいい演技してるんですが当の主人公の軍人、彼キック・アスの俳優なんですが、それに気づかないんですよ悪い意味で。誰でもいいような演技してるから。渡辺謙とかもせっかくいい味だしてるんだから、もっとゴジラとの深い因縁がほしかったところです。でもまぁぶっちゃけ日本版のゴジラのドラマ部分に至っては、メインの特撮終わった後スタッフが疲れた上で撮ってたっていうから、映画的には星3つもないんですけどね(苦笑)。あとゴジラの登場時間はいいとしても、バトルがせっかくハリウッドなんですからもっと魅せてほしいかなって。ゴジラである以上、技に噛みつき、尻尾、体当たりに放射熱線しかないのは仕方ないかもしれないんですけど、パシフィック・リムがDDTの飯伏とケニー・オメガだとすると、こっちはWJの長州と天龍みたいに退屈なんですよ」
上司「その例えは分からんな(苦笑)」
俺「すんません(苦笑)。でも今回のゴジラのムートーを仕止めるフィニッシュ技は凄いとうか、やばかったです(笑)。多分ゴジラ史上屈指の名シーンではないでしょうか。日本人の発想だとかめはめ波を越えるのが超かめはめ波で、さらに強いのが元気玉でそれを越えるのがもっと気を集めた元気玉みたいになってくるんですけど、今回のフィニッシュ技はハリウッドのアクションならではだと思いました」
上司「それは期待させるなぁ」
俺「繰り返しになりますが、集大成なのに滑ったファイナルウォーズから10年、この映画は人類の持ちうる技術力と脚本力と資本力を駆使して作った現時点での最高のゴジラ映画です。過去はもちろん大切ですが、ありがたがるものでもありません。公開されているその時代のお客さんが面白くなければいけないんです。本家がオワコン化させ終了させてしまったゴジラを、今この時代に蘇らせ世界中の人がゴジラの咆哮を聞けるようにしてくれたことにまず感謝したいですね」