「ゴジラと向き合って欲しかった」GODZILLA ゴジラ 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
ゴジラと向き合って欲しかった
ゴジラの叫び声がすごくかっこいい。映画館で見れてよかったし、できればIMAXで見たいと思った。ブルースリーの怪鳥音並の見せ場。
破壊される都市や破壊された都市の美術が凄まじい。演出やカメラワークで誤魔化す気は一切なく、全部じっくり見せてやるという気概を感じた。静岡の廃墟の荒廃ぶりもめちゃくちゃかっこよかった。
場面の切り替えの前振りと結果の構成がすごくかっこいい。
いい場面もあるけどノイズが多い。ドラマの構成として、米軍がやらなくてもいいことをしてそれを回収するためにドラマを盛り上げても、「はじめっからやらなきゃいいだろ、バカ」としか思えず全然気分が乗らない。しかもそもそも放射能が怪獣のエサになっているのが分かっているのに、その作戦を採用するのがアホっぽい。「他に手段があるのか?」と言われても、ますます喜ばせる可能性の方が大きくないか?確実に被害は大きいだろうし。
ゴジラがロサンゼルスに向かって太平洋を泳ぐ場面で、並行して艦隊が進んでいたのだが、ちょっとゴジラがしっぽを振れば直撃する距離だった。いいのか?と思った。
ムートーがかっこ悪い。日本の怪獣はなんであんなにかっこいいのかと逆に思うほどかっこ悪い。ムートーに比べれば、タッコングやツインテール、ペスターすらかっこいいもんな。ゴジラだけでなく、ウルトラ怪獣から何か参考にしたり採用して欲しいと強く思う。
ゴジラが弱い。ムートー2匹に集団リンチ状態の時は悲しい気持ちになった。ゴジラの放射能が弱い。ムートーのメスを直撃したのに、さっぱりダメージを与えていなかった。強すぎてもつまらないけど、スカ勝ちする場面も見たかった。
主人公のキャラが極めて薄い。本当に何の個性もない男で、彼と家族の普通の物語がなんの面白味もない。そこはもうあえてつまらなくしているのかと意図を邪推するほどつまらなかった。ゴジラやムートーに負けないくらいの人間力を持ったキャラが必要だったのではないか? 期待の渡辺謙はゴジラの前でうろたえるばかりだった。
この映画の本来のタイトルは『ゴジラ対ムートー』だろう。『ゴジラ』単体のタイトルをつけるなら、人間とゴジラがもっと向き合うドラマを作ってほしかった。米軍も主人公もゴジラにベクトルが向いておらず、明後日の方向を向いていた。