「凶悪の二面性。」凶悪 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
凶悪の二面性。
凶悪というタイトルの二面性を最後に思い知らされる。
普通の人間が事に耐えられず凶悪化する可能性を、反面教師の如く
最後まで見せつけてくるところが恐ろしい。
新潮45といえば「5時に夢中」で木曜コメンテーターの中瀬ゆかりが
編集長を務めていた頃の事件になる(さすがマリー・アントワネット)
となるとあの編集長は中瀬!?痩せてるじゃん(爆)なんて思いつつ、
死刑囚の告発による実際の事件を取り上げたある意味ノンフィクション
であるこの作品の内容はかなり重い。
ヤクザと不動産ブローカーと記者の「なすりつけ三つ巴戦」に他ならず、
自分達のしていることが分からないヤツほど怖いものはないと感じる。
本業が役者の山田に対し、リリーとピエール(なんかフランス人みたい)
が仲良し感覚で持ち込んだ演技が却って真に迫り、彼を混沌とさせる。
自分の演技があまりにヘタで死んだ方がマシ、とまで山田に言わせた
今作における苦しみが、そのまんま役柄に乗り移ったようにも見える。
休憩時間に「動物の森」でキャッキャッと遊ぶオジサン二人の演技といい、
保険金殺人の被害者である電気屋(ジジ・ぶぅ)のあの危機的演技といい、
凶悪が真面目を喰いまくってしまう存在感がかなり新鮮。
ヤクザの暴力と、それを支配する「先生」こと不動産ブローカーの
凶悪ぶりに唖然としてしまう本作だが、
最も怖さを感じさせるのは、普通の暮らしの中に蔓延っている凶悪。
ことに老人介護におけるそれは淡々としながら凄まじく描かれており、
主人公記者の家庭でも崩壊寸前にまで悪化する。
見て見ぬふりをするのも、面白がって追いかけるのも、金のためなら
魂を捨てるのも、考えてみればみな凶悪になりつつある存在である。
その掬い方が絶妙で恐ろしく、平静に訴えてくるところがなお怖い。
(それぞれの役者の本性を炙り出したような本作。観応えありますよ)