メッセンジャー(2009)のレビュー・感想・評価
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メンタル面での「強さ」が求められる任務
〈映画のことば〉
神や天国は関係ない。
この任務では、告知人の性格が、非常に重要だ。
情に流されない、強い兵士が必要なんだ。
戦死した兵士の遺族に第一報を伝える役回り―戦死告知官とか、損耗兵告知官、もっと平易には告知人とか呼ばれているようですけれども。
そもそも戦闘に斃れた兵士を「損耗兵」と呼ぶ用語法は、評論子は、本作を観て初めて知りました。
ある意味、強烈な表現でもあると思います。
(そう言われて思い起こせば、旧日本軍の作戦将校も「この作戦では兵力の3分の1の損害を覚悟しなければならない」みたいな言い方もしていましたっけ。)
損耗兵告知班に配属されているという彼らは、その「損耗兵」の遺族にしてみれば、肉親や配偶者など身近な者の死を告げに現れる「死神」にもみえたことでしょう。
それだけに、告知を担当する側にも、よりいっそうの精神力が求められる任務であるとも言えるでしょう。
上掲の映画のことばは、そのことを言い尽くしているのだとも思います。
ストーン大尉とモンゴメリー軍曹との交流がメインテーマの本作からすれば、ほんの脇筋ではあるのですけれども。
しかし夫に戦死され、心の拠り所を失ってしまったオリビアの決断も、モンゴメリー軍曹の内面的なその「強さ」によるところが大きかったのだろうとも思います。評価子は。
あと、もう一つは、こういう業務もアメリカでは軍が自分で受け持っているということにも、感慨を覚えました。評論子は。
兵士の最期を遺族に伝えるところまでが、軍が担うべき「戦闘」の範疇と、責任を持って捉えているように見受けられたからです。
この点、戦死の通知は、あたかもそれが単なる戸籍事務の一環に過ぎないかのように、市町村に丸投げし、戦死公報も役場の職員…ともすると郵便配達員が届けていたという、どこぞの国の旧軍隊とは、大違いと思ったことによります。
そんなことにも思いを致せた一本として、評論子的には、佳作であったと思います。
<映画のことば>
こんな真夜中に「仕事」って…。
あなたは助産師?
<映画のことば>
市民生活を送れるのは地獄を見ていない者だけ。
お前には、もう無理だ。
もはや保険の外交員にはなれないってことさ。
どっちつかずな描き方
正直この映画には結構期待していた。戦死者の遺族に第一報を告げる軍人は今までも映画に登場していたが、彼らを主役に据えた映画は見たことがない。戦争の実態を別の角度から切り込んでくれる、そう考えていたのに残念ながらそうではなかった。いや確かに切り込んではいるのだが、それが限りなく甘いのだ。
前半部分は素晴らしい出来だ。主人公のウィルは(心に傷を負っているとはいえ)イラク戦争で活躍したという自負があり、メッセンジャーの仕事が面白くない。対する上官のトニーは“歴戦の兵士”だ。メッセンジャーの仕事に関してはプロだが、本当は実戦経験がないことを引け目に感じている。
この2人の間の微妙な関係が絶妙に描かれている上に、メッセンジャーの過酷さも“ミッション”からはっきりと伺える。遺族たちは誰もが悲しみ、泣き叫び、時には逆上して怒り狂うこともある。その一報を伝えにいく自分たちも辛いのは同じなのに、戦地にいないからとなじられて、プライドもずたずたにされる。見ている側も苦しくなるほどだ。(ちなみにスティーヴ・ブシェミが戦死者の父親役で少し出ているが、相変わらず強烈な演技を見せてくれる。)
だが未亡人となったオリヴィアが登場してから(登場シーンは感傷的で良いのだが)、物語は変な方向へと走り出す。今まではメッセンジャーの仕事を通じて、「2人の傷づいた男が真の友人となる様」を描いていたのに、なぜか「メッセンジャーと未亡人の許されざる恋」も盛り込み始める。しかもそれが限りなく中途半端なのだ。(というのも、この「許されざる恋」を気に入ったのはあのシドニー・ポラックらしい。彼に配慮したのかなんだか知らないが、余計なことをしたものだ。)オリヴィアの息子との交流もほとんど描かれず、なぜ彼らが精神的に互いを必要としていくかがさっぱり分からない。オリヴィアが自分の心情を吐露する場面も唐突で(しかもくどい)、付け焼き刃としか思えない。
後半になると、メッセンジャーとしての場面はほとんど登場せず(中途半端に登場したオリヴィアと息子も消え)、今度はウィルとトニーの交流を描き出す。ベン・フォスターとウディ・ハレルソンの演技は素晴らしいのだが、このパートではなぜかベン・フォスターが息切れ状態に。前半では心に抱えた影を上手く表現できていたのに、その傷もいつの間にか癒えたのか、後半では何の深みも感じさせない。
彼に対し、ウディ・ハレルソンは最初から最後まで魅せてくれる。メッセンジャーの仕事の苛酷さを知るからこそ、遺族にはあえて触れない彼は、プロ意識の固まりだが負い目も感じている。ウィルと出会い、少しずつ変化していく様子もごく自然だし、彼の話を聞いて泣き出す場面はこの映画のピークだ。
良い場面もたくさんあるのに、「ウィルとトニーの友情」「ウィルの元カノとの決別」「ウィルとオリヴィアの恋」この3つを盛り込んだせいで、肝心の心の傷が見えにくくなってしまった。題材が良いだけに非常に残念である。
(13年4月2日鑑賞)
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