「徹子のカルテット。」カルテット!人生のオペラハウス ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
徹子のカルテット。
今作の公開を前にD・ホフマンが来日したのは知っていたが、
先日、「徹子の部屋」にゲスト出演しているのに驚いた。
エ?なんで…ホフマンが徹子?と思ったらなるほど、
今作の原作が戯曲で、その日本版舞台に黒柳が出演したらしい。
(これにはホフマンもビックリ、喜んで褒めちぎっていた)
舞台を原作者が自ら脚色し、今回ホフマン監督で映画化された。
…なるほど、これだけの尺内で物語がおさまっている理由と、
どうもドラマとしての掘り下げが浅い理由が分かった(失礼!)
登場人物4人をメインにした、音楽家老人ホームでの出来事。
何でもこの「ビーチャム・ハウス」のモデル建物は実在しており、
1896年に、ヴェルディが私費を投じてミラノに創設したらしい。
すご~い!さすが音楽家はやることが違うわねぇ~(羨ましい)
今作に使われたロンドンのヘッソー・ハウスも素晴らしい建物で、
週末毎に結婚式に貸し出されているそうだ。
徹子~で、だから週末には機材を片づけて週明けに撮影再開、
というスケジュールだったことをホフマンが語っていた。
しかし何でまた監督デビューのホフマンが音楽映画を?と思った
ところ、彼は本来ジャズ・ピアニストになりたかった人だそうで、
アカデミー賞俳優にはなれたけど、音楽家にはなれなかった彼の
夢と欲望が入り混じった作品だったのかなと思う。
ともあれ、御歳75歳のホフマンが描くに相応しいほんわかとした
人生劇場といった感じ。彼がこなしてきた役柄を思えば(凄演多し)
こんな老後を送りたいものだよな、と思わせる一興に満ちている。
まぁそれでも、やはり音楽面では妥協しておらず…
嘗ての名音楽家たちを使い見事な演奏と歌唱を繰り広げている。
主演俳優たちの歌唱も聴きたかったが、すんなりタイムアップ^^;
俳優は演技、音楽家は演奏、監督は演出のみ、と徹底した役割。
それでも、あの生真面目一辺倒(だと評されていた)ホフマンが、
こんなに温かい映画を作ったことには感無量といったところ。
演出風景も、終始にこやか、(まぁあれだけの名優揃いならばね)
和気あいあいと楽しい撮影現場だったんじゃないかと思う。
物語自体は「いかにも舞台劇」といったシチュエーションが多く、
全体の掘り下げ方は甘い。あれだけ歳をとれば人間誰しもが
複雑な心境を抱えているものだが、それを99分で表現するのは
かなり難しいだろう。群像劇であり音楽劇であり老後恋愛劇の
側面もある今作は、そのあたりはサラッと流して演奏で〆る。
良くも悪くも、音楽を聴いて不機嫌になる人はまずいないので、
心地良く過ごせること請け合いだが、例えばオペラの講習会で
元々オペラという音楽は…とレジー(T・コートネイ)が説明する
オペラの講釈などは非常に興味深かった。
ラップやヒップホップに興じる若者との違いは、ほぼなかった。
日本の歌舞伎と同じで、元々庶民が気軽に楽しんでいたものが、
いつの間にか敷居の高い「芸術」になってしまった、ということか。
後半、G・ジョーンズが歌うアリア「トスカ」は身震いするほど◎
エンドで記される著名な音楽家たちの軌跡と共に、
大好きな音楽を死ぬまで続けられるように心から祈ってしまう。
(私も死ぬまで映画を観ていたいわ。こっちも年齢に関係ないから)