「マリオン・コティヤールの魅力全開!単なるハンディキャップものには終わらない。濃密なラブノワール」君と歩く世界 グランマムさんの映画レビュー(感想・評価)
マリオン・コティヤールの魅力全開!単なるハンディキャップものには終わらない。濃密なラブノワール
こんにちは。
グランマムの試写室情報です。
『君と歩く世界』★★★★
エディット・ピアフを演じ、オスカー主演女優賞を受賞した、今を時めくマリオン・コティヤールの最新作です。『インセプション』、『ミッドナイト・イン・パリ』、『ダークナイト・ライジング』のような、ハリウッドの超話題作にも次々と出演し、多くの監督からラブコールが送られている国際派女優です。
両足をなくしたシャチの調教師の悲嘆と再生の物語‥‥と聞いて、当然の事ながら、コティヤールが主演と思いこんでいました。ところがっ!これは、コティヤールの心を開くシングルファザー役の新人俳優マティアス・スーナーツ(初めて名前を聞く人が殆どでしょう。私もその一人^^;)の映画でした!
そして、またこのスーナーツの演技の素晴らしいことったらっ!思いがけない拾いものをしたような喜びに包まれました。まるで、役と本人が一体化したようなリアリティを感しさせ、人間味を持ち、コティヤールに負けない存在感を発揮する名優だったのです!
前回の日記で『より良き人生』を激賞したばかりでしたが、これだからフランス映画好きは止められない!有難う!フランス!(^^)!VIVA〜!などと叫び出したくなりました(笑)
監督は、これが6作目になるジャック・オディアールです。『リード・マイ・リップス』、『真夜中のピアニスト』などのサスペンスとロマン溢れる仏映画らしい傑作で、仏映画ファンを魅了してきた名匠です。
今回も、薄っぺらい“涙の再生物語”には留まりません。悲嘆、勇気、克服、愛、セックス、暴力などの要素を、濃密且つスピードとリアリティ溢れる演出で、最後まで飽きさせません。
もちろん、コティヤールの魅力も、ふんだんに堪能できます。ファンの方には絶対に見逃せない作品でしょう。そして、マティアス・スーナーツという極めて魅力的な俳優を“発見”した喜びに浸れる、幸福感に満ちた作品となっています。
物語は、陽光あふれる南仏アンティーブ。シャチの調教師ステファニーは、酒場で飲んだくれている時、男に殴られ、夜警をしていたアリに助けられます。荒んだ生活をし、アリにも挑発的に迫るステファニーに対し、「まるで売女だ」と言い放って去っていくアリ。
その後、ステファニーが勤めるマリンランドで大事故が起き、眼を覚ました時は、病院のベッドでした。両脚を膝の下から亡くなっている事に気付き、半狂乱になるステファニー。同僚や家族の面会にも背を向け、心を閉ざしてしまいます。
退院後、薄暗い部屋で車椅子生活をしているステファニーは、なぜかアリに電話をかけます。アリはステファニーを外に連れ出し、「泳ごう」と誘います。「冗談でしょ」‥‥事故以来、そんな言葉をかけられたことのないステファニーでしたが、アリに抱えられ、泳ぎ出すと、一転、歓喜の表情に変わります。
アリはシングルファザーで、姉の家に居候を始めたばかりでした。腕っ節の強さを買われ、ヤミの賭博格闘技に誘われます。ステファニーも、その試合に同行する事になりましたが、そこで、野生に帰ったような男たちの命を懸けたファイトに、心を奪われます。
アリとの出会いから、リハビリに努め、義足歩行ができるようになったステファニー。アリとの関係も、濃密な男女の間柄へと深入りしていきます。互いの生きる活力の源となっていく2人でしたが‥‥。
きらめき溢れる光、明るい海辺の町を舞台にした、捲るめく男女のラブ・ノワール、という表現が似あっているでしょうか。脚本の秀逸さ、演出の非凡性、そしてカメラは、美しく斬新で、生々しい息吹が伝わってくるほどの素晴らしさです。
コティヤールの身体的制約の中から生まれた深い内面性、感情の起伏が激しい難役をもろともせず、観客の胸を痛いほど撃つ演技力には、誰しも魅了されるでしょう。本作を支えるスーナーツは、頭で考えるより、本能で行動する男を、ステファニーのような女を惹きつける圧倒的な魅力を備えた野生児のようなキャラクターを生き生きと自然に演じ切っています。
驚きと共感、勇気、感動を与えてくれる本作を絶対に見逃さないでください。お薦めします!少し先ですが、来年4月6日から全国公開されます。ぜひチェックしてくださいね♪