君と歩く世界 : インタビュー
マリオン・コティヤールとジャック・オーディアール監督が語る、
光に満ちた物語の創造
事故で両足を失った女性の再生を描くヒューマンストーリー「君と歩く世界」の公開にあわせて、主演のマリオン・コティヤールとジャック・オーディアール監督が来日。難役に挑んだオスカー女優と、フィルム・ノワールで名を馳せたセザール賞監督が“光に満ちた”ラブストーリーを語る。(取材・文/編集部 写真/堀弥生)
2007年の「エディット・ピアフ 愛の讃歌」でアカデミー賞主演女優賞を獲得し、いまやフランス映画のみならず、「ダークナイト ライジング」ほかハリウッド超大作でも活躍するマリオン・コティヤール。「映画に出るということは自分にとって“アドベンチャー”。『私の居場所がここにある』と感じられれば、そこにフランス映画、ハリウッド映画という垣根はありません」と語る彼女にとって、「一緒に仕事をすることにずっと憧れてきた」というジャック・オーディアール監督とのコラボレーション、「君と歩く世界」は重要な一作となるに違いない。
相手を求めていた、という点では、オーディアール監督も同様だ。「『エディット・ピアフ』での演技が鮮烈に印象に残っていて、随分前からマリオン・コティヤールという女優と仕事をしてみたいと考えていた」という監督は、今作のステファニー役には、早い段階から彼女の起用を決めていたと話す。
「いつもは脚本を書く際に、俳優の誰かを想定して書くことはない。今回もそうだったんだが、一旦書き終えて考えてみたときに、彼女にオファーしようと思った」
監督からのオファーに「とにかく、オーディアール監督から送られた脚本を読むこと自体が重要でした」とコティヤールは振り返る。そこに描かれていたのは、事故で両足を失い、絶望のどん底に落とされる女性キャラクター。コティヤールはそのステファニーに「恋をした」と言う。
「私が役を決める際に重要なのは、“今までにやったことがない”ということ。彼女はとても稀な境遇に陥る女性ですし、謎めいた部分にとても惹かれたから、ぜひ演じてみたいと思いました」
だが一方で、「オーディアール監督から、まさかラブストーリーのオファーが来るとは思わなかった」と驚いたことを明かす。なぜなら、セザール賞の常連であり、カンヌ国際映画際では94年に監督デビュー作「天使が隣で眠る夜」でカメラ・ドール、09年には前作「預言者」で審査員特別グランプリを受賞しているオーディアールは、犯罪に生きる男たちの姿をとらえたフィルム・ノワールで知られる映画監督だからだ。原作はクレイグ・デイビッドソンの短編集だが、現実の過酷さを容赦なく描写する同作とも違い、映画は光と希望に満ちた世界とラブストーリーを提示する。
「『預言者』が閉鎖した重苦しい空間(刑務所が舞台)を描いたものだから、共同脚本のトム(トーマス・ビデガン)と『次はもっと明るい、女性も登場する広い世界を描きたいね』と話したんだ。原作の色とは違う作品になったけれど、ラブストーリーという展開になったのは望ましかった」
だが、オーディアール監督が手掛ける以上、ありきたりなラブストーリーに落ち着くはずはない。両足を失ったステファニーと、粗野ながらも彼女をやさしく受け入れるシングルファザーのアリが、男と女のむき出しの感情をぶつけ合い、その関係の変遷が、見る者の心に大きな揺さぶりをかけるのだ。
コティヤールは、少しおどけて「男女に“理想の関係”なんてあるのかしら?」と言う。
「人間関係で大切なのは、誠実さと愛情、それに2人の人間が語り合って築き上げていくものですよね。あと、男女の間には、説明できないもの……それは無理に説明してはいけないものだと思うんですけど、そんな少し魔法めいたものがあるのが、良いカップルということなんじゃないでしょうか」
監督が常々考えるという「友情と愛情の境目はどこにあるのか?」という問い。絶望から希望へと一歩を踏み出し、絆を築き上げていくステファニーを熱演したマリオン・コティヤールの姿を通して、私たちもその答えを探してみたい。