劇場公開日 2014年1月25日

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「小さい秘密に隠された女性の本心」小さいおうち Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5小さい秘密に隠された女性の本心

2020年6月11日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

東京のある中流階級の女中の目を通して描かれた、太平洋戦争前の市井の生活。穏やかで幸せな時代と回想する大叔母タキに対して、戦後教育そのままに否定する健史とのやり取りが物語を進める。そこで浮かび上がる奉公先の時子夫人と板倉の不倫劇。山田監督らしからぬ題材をどう描写するか興味深く観ることが出来た。

タキと時子の関係は、ルネ・クレマン監督の「太陽がいっぱい」の女性編になるのか、貧しい生まれから都会生活の安らぎに変わり、若く美しい時子に憧憬と好意を強く抱くタキのたった一度の裏切り。映画としては、些細な出来事だが、一生時子に仕えたいと言っていたタキにとっては許しがたい後悔の念に駆られる。その後独身を通して時子への愛を貫いたと視れば、彼女の純真さが想像できる。
ただ、タキと時子と板倉の三角関係は、曖昧なままで説明不足。時子の幸せを常に願うタキが板倉に対してどう思っていたのかの描写が抜け落ちている。そのためラストの板倉の絵、息子恭一の登場という映画的なクライマックスが最良の効果を生んでいない。

演技面では、主演の松たか子と黒木華が素晴らしい。女盛りの欲望に抗えない時子の感情の行方を丁寧に演じる松たか子に、女中の仕事に献身的に尽くす一途さを体現する黒木華の演技力。このふたりの評価で、この映画の良さの殆どを占める。残念なのは、板倉にキャスティングされた吉岡秀隆の俳優の色が全く合っていないことだ。徴兵検査で丙種合格の後ろめたさを彼なりに演じているものの、松たか子との不貞の相手の危うさのイメージは持ち合わせていない。健史役の妻夫木聡は、「永遠のゼロ」の三浦春馬と同じくステレオタイプの好青年の特徴のない人物像で何の個性も感じられない。脚本の問題だが、教科書通りの歴史観を述べるだけでは教養がない。実際に経験した人間の証言に対しての想像力が欠落した青年で片付けられる。その他男優にも特筆すべき演技がなく、女優優位の作品である。

戦前の幸せな時代を生きた一人の女性の生涯を描く作品の意図は、賠償千恵子が晩年のタキを演じたことで理解できる。戦争がなければタキの一生も全く違うものになっていただろうということに、山田監督の創作意欲が刺激されたのだと想像する。

Gustav
琥珀糖さんのコメント
2024年1月6日

共感ありがとうございます。

松たか子の美しさをはじめて知った映画でした。
(それまでは、垢抜けない・・・とか生意気にも思ってました)
吉岡秀隆は柄でない役でしたね。
妻夫木聡は贔屓の俳優なので、見てるだけで、良かったです。

琥珀糖