「観客がピエタ。」嘆きのピエタ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
観客がピエタ。
「ピエタ」とは
十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く聖母マリア像の
ことをいい、慈悲深き母の愛の象徴であるらしい。
いやいや、慈悲深いとかそういうレベルの映像ではなかったが、
不思議と残酷さは(映像の実態とは別に)物語には流れていない。
どちらかというなら悲劇だ。借金苦に喘ぐ工場主たちの実態と、
暴利で保険金を稼がせ返済させる主人公と被害者たちの関係。
どうにもならない、二進も三進もいかないという状況が観てとれて、
冒頭から胸糞悪い、気持ち悪い、悲惨、と、こちら側も堪らない。
非常に分かり易い映像で今作は見せているが(時代物のように)
不況に喘ぐ日本や諸外国のどこかで同じようなことが起きている。
保険金で償う。とは聞こえがいいが、障害者になってどう働く?
そんな手足でこれからどう生きていくんだ?が見てとれる状況に
まったく辻褄の合わない凄惨な選択が債務者の人生を狂わせる。
30年間孤児という天涯孤独を生きてきた主人公ガンドは、何を
考えるでもなく、債務者を取り立てては、家に帰って食事をする。
浴室の血生臭い映像は、彼の食事用の小動物の残骸である。
そこへ突然「あなたを捨てた母親だ」と言って現れる女。
物語に特異性はないので、この女が一体誰なのかは察しがつくが
しかしどこまでもこの女はガンドに尽くしまくるのである。
ガンドの心は孤独から解放され、母親に傾き始めるのだが、
物語はガンドより先に女の正体と今回の事件の真相を観客に示す。
ラストに向けて、各々の心が動き始めるのはここから。
天涯孤独。も、子供を失った遺族。も、やり切れない想いは同じ。
悲劇を背負った者同士が心を通わせるかと思いきや、図らずも
決して相手には伝わらないままで終わる。
真相を知ったガンドが最後にとる行動は、債務者(被害者)の妻が
彼に向って放つ言葉通りになったが、あまりに救いのない結末。
嘆くのは観客。監督は、観客をピエタに据えたかったのかしら。
(あぁ無情。哀しくてやりきれず。何をどうすれば良かったんだか)