「偏屈に寄り添う姿勢。」ウォルト・ディズニーの約束 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
偏屈に寄り添う姿勢。
久しぶりに鼻水を垂らしてオイオイ泣いてしまった。
偏屈人間が登場する作品が大好きな私も偏屈女だが、
この原作者のトラヴァースはさらに輪をかけた大偏屈人間!
しかし共感してしまった、ウォルトと彼女の共通点には…。
「メリー・ポピンズ」は有名な物語だが、原作は読んでいない。
何度か観た映画版の方では、出演者の裏話の方が有名で、
このタイトルを聞くと決まってそっちを思い出してしまう。
主役を演じ見事アカデミー賞を獲得したJ・アンドリュース、
彼女の初めての映画出演となった作品だが、実はその前に
舞台「マイ・フェア・レディ」で大成功を収めた彼女が映画版の
方にも当然イライザ役でオファーされるものと思われていた。
が、映画女優としては無名の彼女に代わりO・ヘプバーンが
その座を得た。むろん歌声は吹き替えられての公開となった
ことに対し彼女の失意は治まらず、やっとこの作品で彼女は
美声と共に堂々ハリウッド・デビューし、面目躍如を果たす。
何か因縁の復讐のように思えて仕方なかった作品なのだが、
初めて観た時「これがディズニー映画?」という違和感もあった。
その理由が本作で解き明かされるのだが。。。
少女時代の父親との過去を、トラウマに抱えたまま生きてきた
トラヴァース。原題「バンクス氏を救え」←まさにこの通り!と
思うほど家族愛の複雑さに傷つきながら生きてきた人だった。
心優しい父親は悪くいえば飲んだくれの銀行家で、母親は常に
ヒステリック、長女のギンティ(=トラヴァース)は家族の悲劇を
受け止めながら大人にならなければいけなかった存在だった。
大好きな父親をモデルに描いた物語を商業主義?の会社に
絶対に売り渡したくなかったのだ。何が魔法だ、何がアニメだと
一から十までこの偏屈作家はケチをつけ続ける。夢や魔法で
人間を幸せにしようだなんて、ふざけんじゃないわよ!バカ!
みたいなもんだったのだろうと思う^^;なんとなく分かるのだ。
しかしここからの、ウォルトの巻き返しが凄い。
ウォルトの人生もそう明るいものではなかった。ファンタジー王国
を築いた男の半生だって夢や希望に溢れた子供時代ではない。
思うに○○ランドなんていうものを作る人々には、幸せなんて
無縁の世知辛い世界が横たわっていて、だからこそ夢や魔法や
豊かさでいっぱいの楽園地を作ろうとするんじゃないだろうか。
(かのマイケルだってそう、子供時代がなかったんだもんね)
トラヴァースとウォルトの場合、表向きの表現姿勢は違うものの、
根っこの辺りで繋がっているような気がするのは私だけだろうか。
味わった辛さを何でどう表現するかの違いだけのような気がする。
(凧をあげよう、で歌い踊る彼女を見れば分かる)
トラヴァースを訪ね、説得を続けるウォルト。何度、断られても
絶対に諦めないこの姿勢も裏を返せば彼女の頑固とよく似ている。
結果、無事に製作・完成にこぎ着けた「メリー・ポピンズ」だが、
あれほど商業主義に異を唱えたトラヴァースが、涙をボロボロ
流して作品を観ていた姿が印象的。諸手をあげて抱きしめたい、
お互い素直になりたい、仲良くなりたい、本音で語り合いたい、
理解し合うにはここまで時間をかける必要がある人間だっている。
運転手のラルフが、いいお手本を見せてくれた。
いつも彼女を見守り優しく寄り添う姿勢が父親とソックリである。
幾度もダメ出しされたシャーマン兄弟が繰り出す音楽も素晴らしい。
エンディングは必聴。きちんと保管されてたのね(爆)
(エマもトムも最高の演技。コリンもハマり役。そしてギンティは◎)