「完全なる恋愛舞台劇と言う感じの新説千利休に満足」利休にたずねよ Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
完全なる恋愛舞台劇と言う感じの新説千利休に満足
奥田栄治何かとスキャンダラスな噂の尽きない市川海老蔵を千利休に配役した本作「利休にたずねよ」は、そんな彼のイメージからか、海老蔵が演じた利休が、利休らしからぬ千利休映画であると言う事で、賛否両論らしい。
確かに、海老蔵は、30代後半で、千利休の侘び寂の世界観を表現するには、少し若いので無理が有るかな?と映画を観る前は感じていた。
しかし、秀吉の命により、切腹となる利休のその日の朝からの回想となる本作は、海老蔵が、演じるには、もってこいの若き日々の利休のエピソードも満載で、彼にとっては良い役ではあったのではないだろうか?
この作品自体が、新説とも言うべき利休の若い日々を描いているわけだ。
実際に利休の若き日にあのような、失恋秘話が有ったのか無かったのかは問題では無く、フィクションと軽く考えて観ればそれなりに面白い作品だ。
海老蔵が折角演じているのだから、「ロミオとジュリエット」をシネマ歌舞伎で観ていると言う感じの、軽いノリで本作を観れば良いと思う。
多くの映画ファンは、どうしても「信長と利休」を原作として描いていた勅使河原宏監督で三国連太郎が演じていた「千利休」と比較してしまい、三国の利休との大きな芝居の違いで、本作は、駄作と言う評価が出るのかもしれない。しかしこの映画は全く別物である。
熊井啓監督による奥田英二主演の利休も当時の奥田の年齢を考えると、配役に無理があるかも知れない年齢であったが、そこは熊井啓と言う巨匠の演出の素晴らしさで仕上がりは素晴らしい作品だった記憶がある。
今回の「利休にたずねよ」も、歌舞伎の名門に生を受けた海老蔵は、若いと言っても芸歴30年のベテランだ。実力に裏付けされた、自信に溢れる、それなりのオーラが画面から観て取れた。
信長に出会う若き日の利休の姿を演じている彼などは、正に嵌り役。
そして、切腹の20年以上前の利休は、やんちゃな青年で、若く、とんがっていたと言う新たな千利休の一面を描いていると言う点で、例え、史実とは大きく違っていたとしても、この作品はフィクションとしての面白さがあり、私は気に入ったのだ。
そして、利休が号泣するシーンなどは、やはり舞台の芝居慣れした海老蔵ならではの演技!
更に父の市川団十郎との共演、そして団十郎最期の映画と言う事も有り、やっぱりお父ちゃんが出ると、途端に、海老蔵の存在感が薄まるけれど、それは致し方のない事だ。
団十郎は60年の芸歴が有るのだから、画面に緊張感が張りつめて、画面の空気が一転するのは致し方ないのではあるまいか?
歌舞伎界に限らず、団十郎と言う素晴らしい才能溢れる大スター俳優を失い、日本の芸能界にとっても、惜しい存在を亡くした事は残念でならない。
しかし、本作は何と言っても、宿命には逆らえぬ、人間の葛藤を描いている点で大変面白く、興味が持てた。
一見、秀吉が悪者の様な印象も有るけれども、利休も秀吉も一人の人間として観ると、コンプレックスを抱え、悩み苦悩する、小さな人間で有ると言う人間像が面白いのだ。
それぞれの生きる世界で、時の権力の頂点を極めたこの2人だが、どんなに努力して登りつめても、宿命には逆らえない事を知っていた、この2人こそは、良きライバルであり、理解者であったのではないだろうか?
そして、中谷美紀演じる宗恩が、これがまた最高に良い!妻としての立場は護られていても、心から夫に愛おしいと思われていないと言う苦悩の、抑えた女心を巧く演じていたと思う。
お正月、運命に翻弄され、葛藤する彼らに出会えて何だか、久し振りに心を揺さぶられる想いがして、楽しめる映画だった。さて今年の映画の行方が気になるところだ!