「美の理論」利休にたずねよ しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
美の理論
テレビ大阪「シネマクラブ」を録画して鑑賞。
原作は未読です。
織田信長と千利休が邂逅した序盤のシーンに感心させられました。すごいと思ったのは、水盆に映った月がこれほど美しいと云うだけでなく、その献上品を披露するためには相当入念な準備が必要だったのではないかと云うことです。
縁側から月が見えることを調べなければいけないし、上手く月を映すための角度と時間を割り出さなければならない。その結果、時間を合わせるためにわざと遅れて登場した。それを自然にやりのけた利休の所作も素晴らしかった。それらを瞬時に見抜いた信長の慧眼すごい。優秀な人の周りには自然と優秀な人が集まって来る理由とは、こう云うことなのか、と…。
茶の道を極め、戦国武将たちから崇められていく利休。その結果、天下人となった秀吉に疎まれて切腹させられました。最大の要因として、利休に嫉妬し、侘び寂びに抗うかのように贅を尽くしてきらびやかに振る舞えば振る舞うほど、秀吉自身の存在が矮小になってしまうのが許せなかったんじゃないかなと思いました。盛大に開かれた茶会のシーンを観て、強く印象づけられました。あの場では、明らかに利休の方が格上でした。
切腹の理由のひとつとして、利休が大切にしていた香炉を秀吉に譲らなかったと云うものがありました。そこから利休の美の原点となった高麗の女との非恋が回想されました。おそらく創作なのでしょうが涙無しには観られないエピソードでした。
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未完成なもの・不完全なものの中に美を見出すと云う考え、身分など関係無くなってしまう茶室の空間づくりなど、利休が確立した美の世界はとても深遠で、息を呑むような卓越した理論で成り立っているんだなと思いました。