「超一級の題材による、超一級の社会派娯楽女性映画」ゼロ・ダーク・サーティ しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
超一級の題材による、超一級の社会派娯楽女性映画
誤解されるかもしれないが、これは間違いなく娯楽映画。
誤解されるかもしれないが、超一級のネタを扱った超一級の社会派娯楽映画。
テロについて改めて考えるのはよいが、映画なのだから。
キャサリン・ビグローなのだから。
前半の拷問シーンから一気に引きずりこまれる。
中盤の同僚の死、八方塞がり。それをうけて奮起して、小さな糸口から上司に掛け合い、周到に準備し、長官までたどり着き、そして国を動かす。後半の襲撃作戦は暗躍ゲームさながらの興奮。
どこをどうきっても退屈、中だるみなど無縁な、緊張感いっぱいの2時間30分。
とはいえその時間自体は確かに長いのは長いのだが、中盤の主人公の、組織のなかでの振る舞いを丁寧に興味深く描いており、その長さを充実感のあるものにしてくれる。
序盤に彼女は上等なスーツを着て、拷問シーンに立ち会うのだが、どんなに現場では、髪をただ束ね、化粧もせずに走り回っても、本部に戻れば、化粧もするし、スーツをビシっと決めるのである。このCIA像は結構新鮮。
彼女らのチームが結果を出せず、チームリーダー?に猛烈に怒鳴られるシーンもあるし、上司を説得し、ほんの僅かな時間をもらって、長官に作戦の提案をする。そのときの彼女はあくまでチームリーダーのサブなのだ。
当たり前のことだが、このあたりの描写がとても楽しい。
それでもつい、うっかり発言してしまうのだが、ランチタイムにふらっと長官が席にやってきて、経歴を聞いたりするシーンもいい。
主人公の性格づけとして、最初はめんどくさい性格ばかりが強調されていたが、彼女は執念を持った女性だが、ただがなったり超人的なひらめきや活躍をするのではなく、組織の中でのいちキャリアウーマンとしての立ち振る舞いも見せてくれるこの中盤こそがこの映画の一番の見どころ。
キャサリン・ビグローなので、ドンパチは無骨な絵が十分に見られるし、これ以上ないサスペンス性を娯楽性たっぷりに見せてくれる至極の2時間30分。
ビグローが撮らなくても、きっと誰かがこの題材を扱ったはずである。
だからビグローがこの題材をこういう形で映画にしたことに驚愕、そして感謝。
「ハートロッカー」とは雲泥の差。
「アルゴ」なんざやっぱりやんちゃ坊主の映画。
(おっとこれは関係ないか)
本作、「女性映画」としての観点をもっと見どころとしてアピールしたら、ぐんと面白く観れるし、映画もヒットもするのではないだろうか。
オレ的には既にこの映画、本年度ベストワン確定だろうな。