「7年間の執拗な追跡」ゼロ・ダーク・サーティ Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
7年間の執拗な追跡
総合:80点 ( ストーリー:80点|キャスト:75点|演出:75点|ビジュアル:75点|音楽:65点 )
CIA分析官の若い女性が任務のためパキスタンに渡り、治安の問題から殆ど外出も出来ない環境で、命の危険を感じながら数年間を諜報のために費やす。実際に仲間を失い自らも襲われる。関係者から聞き取り調査をして書き上げた脚本は、CIAの任務の実態が見えて非常に興味をそそったし、その表現はなかなかに良く出来ていた。映画なので物語の内容の全てが正しいわけではないだろうが、質が高く上手い。緊張感もあり精神的に疲労困憊していく演出も良かった。『ハートロッカー』で見せたキャスリーン・ビグロー監督の手腕がここでもよく発揮されていた。
こういう題材だから一部の視聴者からは政治的な作品だと思われるのは仕方がないが、私としては知的好奇心をそそり緊迫感があり映画として十分に面白かった。アメリカの情報収集能力をはじめとする総合力の高さを見せられた。自分がCIAの監視対象になるほど大物でなくて良かった。今日も普通に電話も情報通信もできる。
拷問の場面は自国の恥を晒すことになるにも関わらず、堂々と取り入れていたのは良かった。それでも実際の拷問はもっときつかったのだろうと予想する。
目標の側近の医師を味方に引き入れようとして逆に自爆されて多数のCIA要員が失われる話は、以前に他の記録映像で見たことがある。その場面は重々しかったが、その実話がここに繋がっていてこういう背景だったのかというのがわかったのは興味深いし理解が深まった。
私が読んだ報道の記事では、ビンラディンに対する襲撃は絶対に情報が流出しないように秘密裡に行われ、任務にあたるシールズの兵士にさえも誰を襲撃するかを事前に知らせず、攻撃に向かう回転翼機の中で初めて目標がビンラディンと明かされたとなっていた。実際に襲撃前に情報を多くの人に共有していたら情報漏洩の危険が高まるので、恐らくはこの記事のほうが映画よりも正しいのだと思う。
また現実では襲撃は大統領がどうせ人違いだろうと半信半疑ながら許可したという話を聞いたが、映画の中ではCIAと軍隊は出てきても政治家がさっぱり出てこないのは何の意図だろうかと勘繰った。
主人公マヤは最後に高卒だと言っていたが、『レッドオクトーバーを追え』をはじめとするトムクランシー作品の主人公でCIA分析官ジャックライアンは博士だし、自分はCIAの分析官といえば少なくとも大卒だと勝手に思い込んでいた。高卒で入れるのかな。
最後の襲撃の場面は、実際の現場がいかに暗い中で行われたかを強調しようと他のだろうが、やたらと真っ暗で何が起きているのか解り辛い。兵士は暗視装置をつけていてその視線で撮影された場面もあるわけだし、ずっと真っ暗のまま音だけ聞こえているのは映画としてはいただけない。