「「エリート」を「一人の女性」へと戻すラストシーンが素晴らしい。」ゼロ・ダーク・サーティ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「エリート」を「一人の女性」へと戻すラストシーンが素晴らしい。
○作品全体
主人公・マヤが中東に来て、ビンラディンに関する情報を探し、同僚を亡くし、目的を達成する。そのすべての結果を内包したかのようなラストの涙が素晴らしかった。
ラストのシーンまで、マヤが見せる感情に悲しみはほとんどない。ジェシカの死を知ったときでさえ、すぐにアブ・アフメドのことを追いかけだしていた。支局長にないがしろにされたときや、車を襲われた時、本部に戻ってきてからの時間など、マヤが挫折してもおかしくない状況は多々あった。それでも毅然と立ち向かう姿はまさしく絵に描いた「エリート」なわけだが、ラストシーンの涙がマヤを一人の女性に戻し、これまでのドラマの裏にあった悲しみを浮き彫りにしていた。
ビンラディン殺害のカタルシスだけでなく、追跡者としてのマヤをしっかりと一人の女性へと戻したラストシーンだった。
○カメラワークとか
作品のタイトルが指す「未明」。映像演出でも暗闇が鍵になるカットがしばしばあった。アブ・アフメドの存在の不確かさを示す演出は、アブ・アフメドの情報が出てくる様々な尋問映像を調べるマヤのシーンが印象的。事務室から出てくるマヤを捉えるカメラは、暗闇の通路からマヤが浮かび上がってくるように映していた。ビンラディン襲撃シーンの暗闇も時間の経過によって少しずつ暗闇が薄くなってくる演出が。SEALDs隊員の目がなれてくるのに併せて画面も明るく、というのもあるだろうが、目標達成への夜明けとも映る。
これら全てはラストシーンで輸送機から見える朝焼けと、閉じられていく輸送機の扉に繋がる。中東の明けた空と事件の解決。そして一人の女性に戻ったマヤは、その空とは違う空へと向かっていく。