「男と女、不幸せな関係」さよなら渓谷 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
男と女、不幸せな関係
吉田修一の同名小説を大森立嗣監督が映画化。
主演の真木よう子が現在、国内の主要映画賞で主演女優賞を総ナメしている話題作。
さてこの映画、何処まで語っていいのか難しい所。
だけど、公開から半年以上も経つし、どんでん返し映画でもないので、ちょっと深く触れたいと思う。そうでもしないとレビュー書こうにも書きようがないので。
とある渓谷で起きた幼児殺害事件。記者の渡辺は事件を追う内、ひっそりと暮らすかな子と俊介の夫婦に興味を抱き…。
事件はただのきっかけに過ぎず、事件の経緯や捜査を描いたサスペンス映画ではない。夫婦の隠された過去に迫った人間ドラマ。
ズバリ、かな子は15年前に起きたレイプ事件の被害者。そして俊介はその加害者。
何故、そんな二人が一緒に暮らしているのか…? しかも、一見仲睦まじく、穏やかそうに…?
そこには、愛憎としか言えないこの二人だけの関係があった…。
レイプ事件後のかな子(本名・夏美)の人生は悲惨。
婚約破棄、退職、流産、元夫のDV、自殺未遂、失踪…堕ちる所まで堕ちていく。
そんな時に再会した俊介。
かな子はこの男が憎くて堪らない。この男のせいで不幸にしかなれない。
俊介はレイプ事件で将来有望されていた野球の道を閉ざされたとは言え、今は証券会社に勤めるエリート。こんな不公平はない。
「私より不幸になってよ!」
そう叫ぶかな子に、罪の意識を抱えていた俊介は、ただひたすら彼女の後を追うしかなかった。
二人のあてのない旅が始まる。突き放すかな子、傍を離れない俊介。
やがて…二人の間に絆が芽生え始める。かな子が橋から飛び降りようとした時、密かに俊介が止めてくれる事を待つ。
かな子にとって、自分の過去を隠さないでいい唯一の相手。俊介はかな子と共に暮らし、一緒に不幸になる事でかな子を愛する。
憎悪と贖罪から始まった二人の不幸な共同生活に、微かな愛と幸せの予感が…。
真木よう子が熱演。愛と憎しみの間で揺れ動く心の機敏を体現。ラブシーンは濃厚で、生活感漂うエロスが滲む。
大西信満は受け身の演技。「キャタピラー」では衝撃的な“芋虫演技”だったが、素顔は上川隆也似の二枚目。
大森南朋、鈴木杏、井浦新、新井浩文…共演者は映画ファンなら食指が動くほどの個性派揃い。
とにかく、複雑な感情と心理が交錯する。
今はこんな感想だが、また見直せば違った感想が浮かぶかもしれない。
何度も見る価値ある深遠な映画。