「さすがにこれは、ダメだろ」探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点 Chantal de Cinéphileさんの映画レビュー(感想・評価)
さすがにこれは、ダメだろ
真犯人は「学生」である。
「学生」はあだ名で、実際は風俗の呼び込みで働く社会人であり女房も子供もいる。女房はピンサロで働かせて自分はギャンブル狂い、ガキには暴力という厳格なパパである。風貌が学生に似ているので探偵を含むすすきのの仲間たちから「学生」と呼ばれている。
この「学生」が、今回の事件の被害者であるオカマのマサコちゃんを殺した真犯人だ。
「学生」がオカマのマサコちゃんを殺した動機は、一言で言えば身勝手な逆恨みだ。「自分の人生は風俗の呼び込みで毎日毎日『可愛い子いますよ』とヘラヘラしてブスの女房と出来の悪いガキと狭い部屋に住んでどん底なのに、マサコちゃんは自分より良い部屋に住んで、テレビのマジックショーに出演して優勝してみんなにチヤホヤされてムカついたから」だ。物語終盤で飲食店で泥酔して口をすべらした「学生」は前記の犯行動機を探偵に告げたあと「人を舐めた真似をするとこういうふうになるんだよ」と言い放って狂ったように笑いながら飲食店を飛び出しトラックに轢かれてあっけなく死んでしまう。
身勝手で衝動的でなんの理も動機だ。
そしてこの映画は、マサコちゃん殺人事件を巡って、探偵が事件の犯人に違いないと睨んだ政治家「トチワキ」を追い詰めていく物語である。上映時間のほとんどはトチワキやトチワキ周辺の人物との闘いで占められている。
え?なんで?「トチワキ」って誰?犯人は「学生」なんでしょ?
なぜ探偵は政治家「トチワキ」がマサコちゃん事件の犯人に違いないと睨んだのか。それは「学生」が「マサコちゃん事件で知っていることがあるから話したい」と探偵の自宅を訪れ「事件の晩、仕事帰りにトチワキがマサコちゃんのマンションのほうから出てきたのを見た」と言ったからである。
え?それだけ?「トチワキ」も「学生」となにか因縁があるの?
ない。「トチワキ」と真犯人「学生」の間には何の人間関係も物語もない。それどころか、そもそも「トチワキ」は「学生」を知らない。
「探偵はBARにいる」シリーズには、踏み外してはいけない点がいくつかある。その中でも「探偵が『すすきのの雑用係』として活躍する存在であること」「すすきのの仲間たちとの絆が存在すること」の二点は、この物語の世界観を構成する基本的な軸であると思う。
すすきのの仲間であるはずの「学生」が身勝手で衝動的でなんの理もない動機で同じすすきのの中であるマサコちゃんを殺害し、その「学生」の偽りの証言に乗せられて探偵が見当違いの政治家に突っ込むというストーリーは、すすきのの仲間たちの信頼も、探偵の捜査能力も疑問符がつくものにしている。シリーズの世界観を構成する基本的な軸から外れている。
この映画を初見で観たときは「終盤がつまらない」という印象を受けた。なぜなら終盤で真犯人が「学生」であることが明かされるからだ。そして二回目に観たときは「大部分がつまらない」という印象を受けた。なぜなら映画の大部分がそもそも真犯人とは無関係な政治家「トチワキ」を追い詰めていく話だからだ。例えば探偵が政治家の事務所を訪れて「おまえがマサコちゃんを殺したんだろうがァ!」と絶叫する。「いやいや殺してないから」「それ探偵の勘違い」と思いながら観ることになる。そういうのがずーっと続く。これはつらい。
さすがにこれは、ダメだろ。