劇場公開日 2013年9月21日

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甘い鞭 : 映画評論・批評

2013年9月10日更新

2013年9月21日より丸の内TOEIほかにてロードショー

過激なエロティック・ホラーと哀切きわまりないメロドラマの融合

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内気な純情男のフェティッシュな究極の夢想を紡いだ「フィギュアなあなた」(2013)と同時期に連続で、過激なSM描写に終始するホラー・サスペンス「甘い鞭」を撮り上げてしまう石井隆は、やはり今の日本映画界において並ぶものなき異才だ。

昼は不妊治療の女医で、夜はSMクラブのM嬢という二重生活を送る奈緒子(壇蜜)は17歳の時に、近所の男に拉致され、地下室で凌辱されるという凄惨なトラウマを抱えている。

石井隆は、あえて劇中人物ではない喜多嶋舞をナレーションの主体にすることで、現在と過去が引き裂かれてしまった壇蜜演じるヒロインの寄る辺なさ、浮遊している気分をあざやかにすくいとっている。

そのいっぽうで、奈緒子のおぞましき事件の内実を過剰なまでの執拗さで描き出す。全篇、傷痕と血にまみれた痛々しい裸体を晒し続ける少女時代を演じた間宮夕貴の肝が据わった存在感には圧倒される。

この映画では、通常の回想形式のようには過去は、現在とは滑らかに直結せず、常に現在を食い破るように侵犯してくるのだ。やがて奈緒子が地下室を脱出する刹那に味わった奇妙な“甘い味”の記憶が浮上する。それは上客である醍醐(竹中直人)の命令で、立場を逆転させ、奈緒子がSMクラブの女王・景子(屋敷紘子)をサディスティックに鞭打つシーンでようやく像が鮮明となる。さらに真正サディストの登場で、奈緒子の裂けてしまった過去と現在が一挙に統合される苛烈なクライマックスへ――。

石井隆は、被虐と加虐の淵をさまようヒロインを追いつめながら、いつも通り哀切きわまりない宿命的なメロドラマとして見事に完結させている。

高崎俊夫

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