「期待を裏切らなかった」オブリビオン ソラリスの海さんの映画レビュー(感想・評価)
期待を裏切らなかった
DVDの新作情報で近日リリースと紹介されており、それまでは待てなかったので、急いで劇場公開の終了ぎりぎりに鑑賞した。
主演のトム・クルーズは、「ミッション・インポッシブル」などの代表作に示されるように我々に常に訴えかけてくれる俳優なので、このSF作品とどう融合しているかが興味深かった。
この作品の前に見たトム・クルーズ主演の「アウトロー」(どちらも同じジャックという名前である)が、期待はずれの作品(次があっても劇場では見たくない)だったので、自分としても名誉挽回を期待したかった(アウトローも無名の新人が出ているような作品としてならば、それなりに見られたかもしれないが)。
映画の題名であるオブリビオンとは「忘却」という意味で、人間の持つ記憶に関連したテーマ性を持つ作品である。
誰にでも、例えば「この光景やシチュエーションは以前に見たことがある気がする」など、よくデジャブというような体験があるだろう。
こうした記憶については、いろいろな映画でテーマとして取り上げられている。
代表的なものは、「トータル・リコール」で記憶を消されて、以前とは全く違う生活をしている。しかし、ある時突然、今まで失っていた記憶を取り戻すというような展開である。
この記憶とは、私たちにとって、客観的なものなのか、それとも単なる主観にすぎないものなのかが難しい。
「攻殻機動隊」の世界では、電脳化により、人間の記憶が外部から介入され、本人が事実と信じていることが、実はまったくすり替えられたものであったということ(記憶の改ざん)が起きている。
SFに限らずとも現実世界でも、情報操作や洗脳などは起きており、事実のすり替え自体は決して珍しいことではないが。
もう一つのテーマはクローンである。
SFの世界ではこのクローンというのは定番で、普遍的な設定である。古くは「スター・ウォーズ」の帝国軍の兵士たちは皆クローンであるし、「バイオハザード」のアリスのクローンもおなじみである。
この場合、オリジナルとクローンとの関係であるが、肉体的・組成的には一卵性双生児以上に、同じDNAを持つ同一体である。このため、臓器移植用のパーツとしても例えられる。
しかしなら、勝手に作られて生まれてきた側のクローンにとって、アイデンティティの問題が生じてくる。そして、意識や記憶についてのオリジナルとの関係はどうであろうか。
先天的・遺伝的な思考パターンは同一にしても、まったく同じと言えるのか。この映画で密接に問われているところである。
バイオのアリスは自分のクローンたちとテレパシー的な意識の共有をしていた。
「アイランド」では、一部のクローンがすり込まれた記憶ではない、オリジナルから受け継がれた記憶を有していたことが大きなテーマになっていた。
このクローン技術こそ、神の領域であるはずの生命の誕生について、人類が現在においても、関与し得てしまった現実である。
この映画は他の批評にあるように、クラシックな作り(斬新ではないということか、でも奇をてらい不自然なよりもよい、そうしたものは不愉快に通じる)ではある。
しかしながら、作品としてストーリーに沿って見ていて特に不自然さを感じることなく感情移入できる。そして最後のオチについても共感できた。
何より、上記のテーマ等について、いろいろと考えさせてくれる含蓄のある作品であった。
トム・クルーズの主演にふさわしい作品であると思う。