「忘れない為に観にいく」インポッシブル DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
忘れない為に観にいく
スペイン アメリカ合作映画
原題:「IMPOSSIBLE」
邦題:「インポッシブル」
監督: J A バヨナ
キャスト
マリア:ナオミ ワッツ
ヘンリー:ユアン マクレガー
ルカス:トム ホーランド
2004年12月26日に起きたスマトラ島沖地震と それに続いて起きた津波の被害にあった、スペイン人家族のお話。あの23万人の死亡者、行方不明者を出した津波だ。
これは実話です、という断り書きで映画が始まり、最後に実際に被害にあった家族写真が出てくる。主演したナオミ ワッツが、今年のアカデミー賞、主演女優賞にノミネートされている。監督は、サイコホラー映画「永遠のこどもたち」を製作したJ A バヨナ。
ストーリーは
クリスマスイヴ。2004年のクリスマスホリデーを 家族そろって過ごそうと、3人の子供達を連れたスペイン人一家が、タイのリゾートにやってくる。日本に派遣されて働いている父親ヘンリーと、医師の妻、マリアと、5歳、7歳、と15歳の3人の男の子たちだ。 寒い冬から一足飛びで真夏のリゾートに来て、クリスマスには、子供達はクリスマスプレゼントを受け取る。幸せ一杯だ。翌朝 家族は、早くから南国の強い光をあびて、ホテルのプールで遊んでいた。その時、未曾有の規模のスマトラ島沖地震が起き、近辺の海岸だけでなくアメリカやアフリカにまで波及して犠牲者が出るほど大規模の津波が押し寄せる。不気味な轟音と共に、ホテルの塀を越えて、巨大な波が押し寄せてきたとき、家族全員が あっという間に大波に流される。
波が来た時に、初めに遠くに流されていった長男のルカスを マリアは追う。名前を呼びながら、漂流物にぶつかり、傷だらけになって、マリアはルカスと一緒になると、長い漂流の末、やっとのことでマングローブの茂る浜に泳ぎ着く。マリアは肺に達する大きな傷を胸に受け、ガラスで切った片足も出血が止まらない。そんな母親を励まし、自分も傷だらけになりながらルカスは、救出されるまで 母親を気丈に支える。
ヘンリーは、波が押し寄せてきた時、幼い二人の息子を抱きかかえていた。肋骨骨折や無数の傷を受けながらも運良くホテルに近い椰子の木にひっかかり無事息子の命を守ることができた。二人の息子達を避難所に向かうトラックに載せると、ヘンリーは、7才のトマスに、5歳の弟の面倒を見るように言って聞かせ二人の見送ると、自分は長男とマリアを探し始める。おびただしい数の死体。混乱を極める仮設病院。
マリアはルカスの機転で、病院に運ばれ、胸の手術を受けるが、傷は深く衰弱が激しい。やがて沢山の人の助けや偶然が重なり、家族5人が再び会うことが出来、マリアは気力を取り戻し、、、。というお話。
2011年3月11日に、東日本大震災と、それに伴う大津波と原発事故を体験している日本人には、この2004年の大津波の映像を見るのは過酷過ぎる。と思っていたが、この映画、日本でも、じきに公開されるという。主演女優ナオミ ワッツがアカデミー賞にノミネートされたからかもしれない。確かに子供の為なら何が何でもやってのけることができる母親の姿を熱演していて、あつい涙を誘う。とても良い役者だ。
ナオミ ワッツ、44歳イギリス生まれのオージー女優。高校では二コル キッドマンと同級生だったそうだが、ニコルのように恵まれた家庭で育った女王様ではなくて、働く為に卒業もしていない苦労人。テレビ俳優だったがデビッド リンチに認められて、2001年「マルホランド ドライブ」を主演して実力を見せた。
その後、2004年に日本のホラー鈴木光司原作、中田秀夫監督による「リング」のアメリカ版リメイク「リング1」と「リング2」を主演した。日本のホラー、怪談の怖さを世界中の人々に紹介して震え上がらせてくれた功績者でもある。2005年の「キングコング」では、網タイツで踊って手品をみせてキングコングを面白がらせて辛うじて殺されずに済んだ女を演じ、2010年「フェアゲーム」では CIA職員でありながら「イラクに 核兵器どころか大量殺人兵器も無い」と本当のことを言ってしまって、CIAから命を狙われた役をショーン ペンとともに演じ、また、2011年には「「J エドガー」では、一生独身で、エドガーが死ぬまで支えて生きる地味で寡黙な秘書の役を演じた。美人なのに、総じて金髪美人の可愛い子ちゃんが良い男に会ってハッピーエンド、、というような作品に全然出ていない。「マルホランド ドライブ」でデビューということからしてメインストリームではない。頭が良すぎるのかもしれない。
映画でナオミ ワッツの夫役をやったユアン マクレガーは、41歳、スコットランド人の舞台俳優だ。この人も過酷な状況で傷だらけになりながら苦労する役が多い。2012年の「イエメンでサーモンフィッシング」は、彼にしては珍しい恋愛ものだ。彼の2011年「ゴースト ライター」が良かった。ここでも彼はCIAに最後にあっけなく殺されてしまう。
今回の映画でナオミ ワッツ以上に大活躍して「悲嘆」「絶望」そして再会後には「歓喜」をたっぷり見せてくれて泣かせてくれたのは 長男ルカス役のトム ホーランドだ。16歳のバレエダンサーということだが、華奢でずっと若く14歳くらいに見える。ジブリ作品「アリエッテイ」の主役、心臓病のショウの役を 英語版で声役を務めた。舞台「エリオット」で注目されてエリザベス女王の前でも演じたそうだ。バレエを踊る舞台俳優。将来を期待されている。
津波で人々が流されるシーンは クリント イーストウッド監督の映画、「ヒア アフター」に出てくる津波のシーンに、とてもとても似ている。透明な水の中で人々が溺れ、激しい勢いで突進してくる車や柱にぶつかり傷だらけになる。衝撃音がすごい。
でも本当の津波は、透明な波ではなくて、海底地震によって覆された海底の真っ黒い土砂の波が 暴力的にぶつかってくるのだ。この波に沈められると、海の中は何も見えないし、衝撃で多量に飲んでしまう土砂はヘドロや石油を含んでいるため急性中毒を起こして、救出されたあとで 人々は亡くなることが多い。泥が咽喉に詰まって呼吸ができなくなったり、急性肺炎も併発する。これほどの大規模の大災害にあって 混乱のなかで家族5人が再会できたことは、この映画のタイトルが言うように ほとんどインポッシブル(ありえない、不可能)なことだったろう。奇跡に近い再会だった。映画はハッピーエンドだが、現実は 23万人の死であり、とてつもない「悲惨」と「無残」な別離だった。
ヒトは、2004年にスマトラ島沖地震と津波を体験し、2011年3月に東日本大震災と大津波を経験した。ヒトは二本足で立ち、道具を自在に使えるようになると、ほかの動物も植物もすべて人が生存する為に利用し、自然を破壊してきた。自然から逆襲されても仕方の無いほどに、罪を犯してきた。いずれヒトは滅亡し、地球は無くなる。無限の宇宙の歴史から見たら、地球上で繰り返される自然災害など ちっぽけな出来事でしかないのかもしれない。
それでも私達は、こうした映画を通して 災害に出くわしたひとつの家族の喜怒哀楽に、少しでも共感したくて、映画を見る。
絶対、忘れない為に。