「今年、最も切なく美しい映画」あかぼし 光田 幸広さんの映画レビュー(感想・評価)
今年、最も切なく美しい映画
母と小学生の息子の物語である。
父は蒸発して今も行方不明。母は心を病み、親戚も冷たい。
少年は常に孤独である。だが、その孤独に大人たちは誰も気付かない。
母でさえも。。
そして、唯一少年がのびのびと生きられる学校も、母と宗教の伝道を始めたことが友達にばれて、居場所を失う。
母親の勧めで、少年は家に引きこもる。
夕方からは、いつものように母と伝道に回らなくてはいけない。
昼間は学校がない分、暇で寝たり、ベランダで過ごす。
少年はこの自由な時間のなかでいろいろ考えたようだ。
「自分とはなにか・・」「お母さんにとって僕はどんな存在なのか」
こういう台詞をつぶやいたりする場面はない。
だが、なんども映画を見返すうちに、こういうことを考えたんだろうなと、どうしても思ってしまうのだ。
そして、少年は宗教団体で知り合った少女と町で遊ぶ。少女も少年と似たような境遇だった。少女が親には言えない方法で稼いだお金を遣いまくって、ゲームセンターとかで、おもいっきし遊ぶ。
その遊ぶ様子は、とにかく楽しそうで観ている僕も楽しくなる。嬉しくなる。このときのあの子たちの笑顔がものすごく魅力で救いで、映画をダークな世界に落とさない役割を担っている重要な場面だと思う。
そこで少女は少年に、家出を誘われる。
少年にとって母から自由になるためには二度とないチャンスである。伝道にもいかなくていい。揺らぎ・・・揺らぐがついに家出を決意する。
夜、二人は落ち合い大坂行きのバスがでる新宿まで電車に乗る。少年の肩に顔を埋める少女。
これは冒頭の少年の肩に顔を埋める母のシーンとだぶる。
少年は何を思ったのか。
何を考えたのか。
「ごめん、俺、やっぱり家かえる」
といい、泣きながら走りながら家に向かって走る。
泣いたこともない強い少年が、涙が溢れて溢れてとまらない。
そんな少年を包み込む夜景は美しく優しい。
少年を母はどんな顔で迎えたか・・・。
それはここではかけない。
ひとことでいえば衝撃的なかんじです。
心配したとか、安堵したとか、帰ってきてくれてありがとうーとかじゃないです。
それは観てみてください。
そして、涙をふき終えた少年はそのすべてを受け止めて、笑顔それも今まで出一番すばらしい笑顔で、母に叩き込まれた伝道の台詞を言います。
こんな映画です。