「【”お前の映画を待っている人が居ると母は私に言った。”今作は木下惠介監督が軍部から自らの映画を軟弱と言われた時に、深い家族愛と自らの映画を愛する人が居る事を知り、再生する様を描いた逸品である。】」はじまりのみち NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”お前の映画を待っている人が居ると母は私に言った。”今作は木下惠介監督が軍部から自らの映画を軟弱と言われた時に、深い家族愛と自らの映画を愛する人が居る事を知り、再生する様を描いた逸品である。】
ー 今作は、ラストに流れる木下惠介監督作の数々を観て、たった3作しか観ていない事に気付き、残りも観ようと思わせてくれた作品である。-
■木下惠介(加瀬亮)は、念願の映画監督になるも、戦時中は戦意高揚の映画を製作していた。その中の一作「陸軍」で、出生する息子を必死に追う母の姿が軟弱であると軍部に指摘され、次回作が作れなくなる。会社に辞表を出し、失意のうちに浜松に戻った彼は、病床の母(田中裕子)、兄(ユースケ・サンタマリア)と荷物運びの便利屋(濱田岳)と共に、母をリヤカーに乗せて爆撃の危険がある浜松市内から、山間地に住む親族を頼り長い道のりを歩くことを決意する。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は、病により口をきくことが不自由な母、真面目な兄、そして力持ちだが剽軽で善良な便利屋と、暗い顔をした木下のロードムービーであり、4人の遣り取りが時に可笑しく、時に心に響くヒューマンドラマである。
・特に、力持ちだが剽軽で善良な便利屋を演じた濱田岳が、途中で泊まった宿屋の娘二人(ナント、相楽樹と松岡茉優である。)の事が気に入り、キャッキャと戯れる姿と、外に出て木下に対し、彼が監督したとは露知らずに映画館で観た「陸軍」の感想を言う姿が良い。
”あんな、素敵な映画はないに。最後は涙したに。”という言葉に対し、木下が言う”自分の息子に立派に死んで来いなどという母は居ない。”という台詞が心に響く。
木下監督が、仕方なくプロパガンダ映画を作りつつ、映画人、人間として優れたる人物である事が良く分かるし、濱田岳の人間味あふれる演技は見事である。
■親族の家で、床に入っている母が木下に読ませるために書いた手紙を田中裕子さんの声が読み上げるシーンと、田中さんが口が利きにくい母の想いを木下に伝えるシーンは白眉である。
<今作に登場する人物は、皆、人間味が有り優しい。今作は、原恵一監督が木下惠介監督に捧げたオマージュであり、自らへの家族愛に触れた木下監督が喪失感から再生していく気品高き物語なのである。>