「木下惠介監督へのラヴレター。 この題材で映画一本作ったことに拍手👏」はじまりのみち たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
木下惠介監督へのラヴレター。 この題材で映画一本作ったことに拍手👏
昭和初期から平成にかけて活躍した映画監督・木下惠介の、母親をリアカーに乗せて疎開したという実際の出来事を基に映画化したヒューマン・ドラマ。
監督/脚本は『クレヨンしんちゃん』シリーズや『カラフル』の、巨匠・原恵一。
主人公である木下惠介監督を演じるのは、『アウトレイジ』シリーズや『SPEC』シリーズの加瀬亮。
惠介の母、木下たまを演じるのは『もののけ姫』『ゲド戦記』の、レジェンド女優・田中裕子。
木下の疎開を手伝う便利屋を演じるのは『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』の濱田岳。
木下一家が泊まる旅館の主人、庄平を演じるのは『20世紀少年』シリーズや『カイジ』シリーズの光石研。
旅館の娘、やゑ子を演じるのは『桐島、部活やめるってよ』『悪の教典』の松岡茉優。
松竹のプロデューサー、城戸四郎を演じるのは『踊る大捜査線』シリーズや『ツレがうつになりまして。』の大杉漣。
木下が見かけた学校の先生を演じるのは『ソラニン』『おおかみこどもの雨と雪』の宮崎あおい。
なお、作中のナレーションも宮崎が担当している。
第5回 TAMA映画賞において、特別賞を受賞!
『クレヨンしんちゃん』シリーズでお馴染み、アニメファンなら当然知っている名匠・原恵一の初実写作品。
題材としたのは原監督も大いに影響を受けているという昭和映画界の巨人・木下惠介。
黒澤明のライバルといわれ、戦後映画界を牽引した偉大な映画監督。
恥ずかしながら、自分は木下映画を一本も観たことが無い💦
それどころか木下惠介という名前すら知らなかった…何という無知´д` ;
こんな木下惠介監督のことを全く知らない人間がみても、十分に良い映画だと思いました。
木下惠介生誕100周年記念作品ということで、木下惠介監督の偉業が伝わるように、彼の作品の実際の映像が作中に引用されますが、そのどれもが素晴らしく芸術的で木下作品を観てみたい!という気持ちにさせてくれます。
映画の内容は恐ろしく地味。昭和文学の香りが漂うミニマムな物語。
とはいえ、母と子の物語かつ喪失したアイデンティティの再発見という物語なので、誰もが共感し感動する映画になっています。
加瀬亮とユースケ・サンタマリア、そして濱田岳のロードムービーという側面もあり、この3人のアンサンブルも見所の一つ。
ぐっと抑えたユースケ・サンタマリアの演技が光っている。
特に濱田岳の演技が素晴らしい。ちょっと厚かましい青年の役をやらせると、本当に濱田岳は上手い!
中々良作だと思うが、気になる点もいくつかある。
まず冒頭、木下惠介と松竹のお偉いさんの大杉漣の会話シーン。ここが説明的すぎる…。
いかにも演技してます感が、ちょっとな〜と思ってしまう。
冒頭でもたついてしまって、物語にスッと入り込めなかった感じ。
それと空襲のシーンが一つもないのは、やはり予算の関係だろうか。
やっぱり戦時中が舞台の映画では燃え上がる炎の恐怖を見せて欲しい。
意外と木下惠介と母親が差し向かうシーンがないのもあれっ?と思った。
何故木下惠介がこれほどまでに母親孝行をするのか、そこはもっと掘り下げられたのではないだろうか?
長旅で乱れたお母さんの髪を、惠介が櫛でとかすシーンは非常に素晴らしかったので、もっとこの親子の関係を描いて欲しかった。
あとは木下惠介作品の引用部分。
引用自体は良いんだけど、ちょっと長すぎやしませんか?正直、映画全体のテンポが悪くなっている。
あえて長尺で引用しているのだろうが、もっとスマートにした方が良いと思う。
少々不満点も書いたものの、心に染み入る良い映画なのは間違いない。
優秀なアニメ監督は、やはり実写を撮っても優秀なのだということを証明した一作。
8月に観る映画としては最適です!