劇場公開日 2013年6月29日

「最高の東野圭吾作品」真夏の方程式 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 最高の東野圭吾作品

2025年9月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

真夏の方程式

2013年の作品
東野圭吾さんの原作
そしてこの映画はガリレオシリーズの中でも最高傑作だと思う。
物理学者湯川にとって、自然現象や人間の行為を暴くことは可能だが、子どもに対する嫌悪感と蕁麻疹については、その言葉以外見当たらず、苦手だから近づかないようにするしかない。
そんな湯川だが、恭平少年には蕁麻疹が起きなかった。
これは明らかに異常で、湯川にとって何かを暗示させるものだった。
そしてこの「暗示」なるものは、湯川にとっては「未知」となる由々しき出来事だ。
ガリレオシリーズで湯川はすべての事件を解決してきた。
そしてこの「真夏の方程式」もまた、真実が明らかになった。
しかしその真実を警察には伝えない。
それこそ湯川が恐れた「ある人物の人生が大きくネジ曲がる」ことだった。
この作品の面白さは、この割り切れない心の葛藤であり、「今すぐには答えを出すことができない」余韻だ。
すでに気づき始めた恭平
その不穏と葛藤に寄り添う湯川
毎日何処かで事件は起き、傷つき悩む人々がいる。
法律はそれを真っ二つに裂くように判決を出すが、心を裂くことなどできない。
このどうしようもなく割り切れない部分が切なさなどを呼び起こし、人の心を大きく揺さぶる。
警視庁の岸谷にも、今回だけは人の心の割り切れなさについてよくわかったのだろう。
彼女は、取調室のマジックミラー越しに川端と湯川の会話を聞きながら、川端の思いに心を打たれてしまった。
このワンシーンだけで人間の心をうまく描いていた。
湯川は、捜査に協力しながらも人の心の奥底にある「決して譲れないもの」に触れたのだろう。
仙波が何故殺人罪を被ったのか?
川端が何故、嘘を突き通すのか?
二人が絶対に守りたかったもの その意味することに湯川の焦点が当てられた。
そして、当然ナルミが感じていることも察知していた。
仙波が被った事件はすでに「終わった」ことで、それをほじくり返すことを仙波は許さない。
殺人を事故死通し通した川端の証言も、絶対に覆さない。
仮にナルミが「罰を受けます」としても、殺人罪の刑を終えた仙波の人生は無意味となってしまう。
そこで湯川が考えて出した答えが、ナルミに「使命」を与えることだった。
ナルミが使命としていた「美しい玻璃が浦の海を守ること」は、悪くはない。
しかし、変わらないと信じ続ける美しい海も、いつか掘削場となるかもしれない。
そして、変わらないものなどないが、新しい使命を作ることはできる。
それこそ、ナルミと同じ苦しみを抱え始めた恭平の相談相手になること。
殺人の片棒を担がされてしまった出来事の「意味」
この問題を一生抱えてしまう恭平に寄り添うこと。
仙波の思い
重治の思い
節子の思い
ナルミを守るという「使命」に、ナルミが応える番になった。
それは、形を変えただけで何も変わらないと思えるかもしれないが、その「思い」で人生をまっとうすることは、おそらく不幸ではない。
なんでも割り切ってしまう法律が、そうさせているだけ。
その隙間にあるものこそ、本当の人間の姿なのだろう。
湯川は奇しくも、その「割り切れず、答えを今すぐには出せないもの」に触れてしまった。
それはかつて「容疑者Xの献身」で、石神が最後まで口を割らなかった出来事に、湯川は敗北感を喫したことと似ていた。
湯川に起きた2度目の出来事
しかし今回湯川は、積極的に割り切ることをしなかった。
湯川という物理学者にとって、人間の心というものほど難しい課題はないのだろう。
物理学と全く関係ないように思えるこの「心」は、昨今量子物理学によって示され始めた。
人の心と科学
この一見無関係に思えることが、実は大きく関係していた。
もし、その2つが全く関係ないのであれば、「物語」など何の意味もないだろう。
しかしこの物語のように、人の心を大きく揺さぶるものの正体は、個々人という唯一無二の存在であり、それらの心もまた唯一無二であり、かつ「共感」というものが生じるからだろう。
小説もドラマでもガリレオシリーズはたくさんあったが、「容疑者Xの献身」と「真夏の方程式」を通して描かれたのは、湯川自身の成長だったのかもしれない。
そして最後のシーンで、恭平の父はロケットの記録を見ながら言った。
「さっぱりわからん」
これは湯川のセリフだ。
部品がまだ揃ってないので、事件の全容など想像できないときに言うセリフ。
父には、事件のことも恭平の心のこともまったくわからない。
同時に、事件の真相を暴いてしまった湯川には、事件の核心にあった「こと」の重大な重さを安易に警察に話すことなどできなかった。
湯川はまず、この自分の心が「さっぱりわからん」ようになり、もしかしたら石神を思い出したのかもしれない。
石神は花岡靖子という女性に出会ったとき、彼の中で初めて「解けない問題」が生まれた。
それは、「人を守るとは何か」という問い。
彼は、彼女の罪を背負う。
彼女の人生を守るために、自らの人生を差し出す。
その行為は、論理では説明できない。
だが、彼にとっては、それが唯一の「解」であり、「証明」だった。
湯川は、石神の出したその“証明”の美しさと恐ろしさを見抜いた。
湯川の問いに、石神は答えない。
答えは、すでに沈黙の中にあるからだ。
石神の愛は、声にならない。
だが、その沈黙こそが、最も雄弁だった。
湯川はこの「真夏の方程式」を、石神の思いと重ね合わせたのだろう。
旧友の想いに触れ、共感したとき、ナルミに対し、そして恭平に対して伝えたい言葉が浮かんだ。
だから最後は、「さっぱりわからん」で良かったのだろう。
何度見返してもいい作品
この余韻がたまらなくいい。

R41
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