劇場公開日 2013年6月29日

「少年への眼差しが哀しくも愛おしい。」真夏の方程式 羅生門さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 少年への眼差しが哀しくも愛おしい。

2025年9月21日
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鑑賞方法:DVD/BD

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夏になると、どうしても見直したくなる。夏を舞台にした日本映画屈指の名作だ。やはり「真夏の方程式」が映画としては一番に東野圭吾作品の世界観を表現できているのではと思う。ペットボトルロケットのシーンの美しさは邦画では出色の出来だった。あの瑠璃色の海中の美しさを少年に教えてあげる、偏屈な物理学者の優しさが堪らない。理科好きは当然のこと、理科嫌いでもワクワクする実験装置、それもごく普通に身の回りにあるグッズで可能になるスリリングなアイデア。事件の本筋は東野圭吾作品にありがちな、愛する人を護るための自己献身の物語だが、今回はその犯行の課程でいたいけな少年を犯行の共犯者に仕立ててしまった大人の罪作りが大きなテーマとなっており、これが真夏の太陽と海の輝きと、どす黒い大人の悪意と一寸した思い付きで子どもを事件に巻き込んでしまう軽率さが相まって、何とも切ない想いが胸を締め付ける。「容疑者Xの献身」は小説は面白かったが、映画は困り物だった。小説は単なる自己犠牲の美談だけではではなく、他人に認められない天才が、己の才能に酔って暴走する哀しさを表現していたと思う。最後に何で?と慟哭するのは、単に「なぜ、俺の気持ちを分かってくれないのか?」だけではなく、完璧なはずの作品を、何故ぶち壊してくれたんだ!との悔しさと怒りが込められていたと思う。小説は読み取れたが、映画は堤真一という見目麗しい男にして、醜男の独りよがりの深情けと嫉妬と天才故の自己満足・自己陶酔のカオスが表現出来ていなかったので残念でした。同じように横溝正史の「悪魔の手毬唄」も、映画では単に近親婚を避けるため、が犯行動機として描かれていたが、小説を読めば、犯人のリカが自分も元芸人で、その能力を発揮出来ずに田舎で燻らなければならなかった哀しさを、「見立て殺人」という奇想天外な犯罪を演出して見せる自己満足・自己陶酔の賜物だと読み取れたのだが。映画「沈黙のパレード」も被害少女の叔父の増村のエピソードをあっさりと短くし、ヘリウム風船のガスボンベのミスリードをバサッとカットしたりとちょっと残念でした。その点、この「真夏の方程式」は小説の世界観を変にいじることなく映像化してくれていて、また、夏を舞台にしたこの小説を見事にビジュアル化してくれて、監督に感謝したい。

羅生門
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