「大体、知っていることだった。」ハンナ・アーレント bashibaさんの映画レビュー(感想・評価)
大体、知っていることだった。
岩波ホールでは、連日、満員ということだったので、恐れを成して観に行きませんでした。劇場が変わって新宿のシネマカリテで上映されている、ということなので、シネマカリテに電話してみると、満席にはなっていない、とのことなので、出かけました。
アイヒマンの裁判を通して、政治哲学者ハンナ・アーレントが感じ、考えたことを巡る一連の顛末が綴られていますが、どのエピソードもかなり知られたもので、特に新鮮味はありませんでした。「よい兵士とは考えぬ兵士のことだ」という軍隊に関する格言がありますが、全体主義の国家にあっては、軍人のみならず、役人にもこの格言が当てはまるのでしょう。
この映画が劇映画ではなく、記録映画であったなら、尚、良かったのにな、と観終わったとき、思いました。ユダヤ人の映画監督、クロード・ランズマンが撮った9時間に及ぶ記録映画「ショアー」のように、アイヒマンやアーレントに関する記録映像やアイヒマンやアーレントを良く知る人の証言映像を集めて、劇映画ではなく、記録映画にした方が、衝迫力がより大きかったと思うのですが・・・。なんだか、史実を忠実になぞっただけの平凡な映画のように思えました。特に最後の場面には失望しました。大学の講堂で満員の学生を前にして、アーレントが自身の考察結果を披瀝する、この映画のクライマックスとも云えるくだりはチャップリンの「独裁者」やスピルバーグの「シンドラーのリスト」を連想させ、この監督の発想の貧弱さを露呈させているように思えました。映画の核心部分を単なる科白の朗読で済ませては、その映画は極めて退屈な駄作へと堕するのです。映画である以上、あくまで映像で語って欲しかったです。
何故、連日、岩波ホールが連日、盛況だったのか、よく判りませんでした。