「自由にしたらどうなる?どうする?でなく、まず自由にすることが先決」リンカーン talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
自由にしたらどうなる?どうする?でなく、まず自由にすることが先決
歴史上の偉人をテーマに映画なりドラマにするのはとても難しい作業だと思う。史実に忠実な伝記物にするか?「その人」のいつの時代を切り取るのか?何に焦点をおくのか?私生活は?イメージや見たい知りたい部分は人によって千差万別なのは当然だと思う。私はリンカーンのこういう所が見たいというのが特になかったので、この映画はとてもよかったし新鮮な面白さを覚えた。音楽含めて抑制が効いていて、スピルバーグ監督の映画の中では「ミュンヘン」と同じ程感動したし良かった。
大統領として、政治家として、状況を見据えて冷静に判断し力強いリーダーシップを発揮する。物静かで優しい印象がありながらとてもユーモアがあってスピーチはなるべく短くしようとしていた(最高だ!)。喩え話や笑い話が好きで周囲を和やかにする才能に長けていた。黒人兵士、白人兵士達と気軽に話したり、ユークリッドの公理「同じものに等しいものは、互いに等しい」を例に正義の自明性を語るシーンもいいなあと思った。それを語ったのは電報を打つ所で聞き手はそこに居たたった二人の電報員(一人はアダム・ドライバー)。その時も真夜中だったがいつ眠っているんだろうと思うほどの働きぶりだった。奴隷制を完全に廃止する憲法修正第13条を下院でも通す為の票の取り込みとロビイ活動指示、南部の州とのやりとり、フットワークの軽いビルボ(ジェイムス・スペイダー)を上手く使う、病院への見舞い、激戦地だった場所への視察、一年間で十歳も老けたと言われる言葉に説得力があった。
一方でリンカーンは家庭の人でもあった。幼い息子の相手をよくし、大学生の息子ロバート(ジョセフ・ゴードン=レビット)とはぶつかりながらもよく理解していた父であり、妻と常に話し夫婦喧嘩もよくするが妻のコルセットを外す手伝いもする夫だ。
そんなリンカーンを演じたダニエル・デイ=ルイス素晴らしかった(心身共に疲れたろうなあ)。長身痩躯(妻とのあまりの身長差に笑えた!)で癖っ毛。歩き方、話し方、表情、目の優しさや厳しさ、彼ほど国民に愛され高く評価された大統領はいないと言われる「リンカーン」像に納得した。