「憲法改正にかける執念」リンカーン はち公さんの映画レビュー(感想・評価)
憲法改正にかける執念
リンカーンと言えば有名な演説と奴隷解放…という基礎知識はあるのですが、実際にどの程度知っているかと言われると、詳細はほとんど知りませんでした。
去年から今年にかけて立て続けにリンカーンの映画が公開されましたが、本作は史実に基づく内容。
憲法を改正して奴隷廃止が盛り込まれるまでの議会でのやりとりが描かれます。
対立する野党に”独裁者”とまで言われてもなお、奴隷廃止を憲法に盛り込もうとするリンカーン。
私自身は生まれながらにして自由なのでピンと来ない部分もありますが、おそらく当時のアメリカでは、黒人奴隷を白人と同様に扱うことを「非常識」と考える人間が少なくなかったのだろうと、そういう描写がされています。
そして、奴隷制度廃止を争点としたアメリカ南北戦争。
自由を得るために武力による戦争をし、沢山の人間を犠牲にしたことが正しかったのか…?と考えてしまうのは、おそらく、そういった経験がないからだろうと思う次第。
振り返れば、日本国憲法は制定後一度の改正すらなく、自分達で権利を勝ち取ったという経験を持っていない。そこに書かれた権利群はおそらく、こういった闘争や犠牲の末に出来上がったものなのだと思いますが、我々にはその認識がない。
いや、日本国憲法制定後に出来た「環境権」や「プライバシー権」などの多くの権利ですら、解釈で条文に潜り込ませるという事を繰り返し、自分達の言葉で正面から議論することを避けているとも言える。
映画では一方で、リンカーンの家庭的事情も描かれます。
大統領として重い責務を果たす一方、家庭的にも問題が無かったわけではなく、仕事と家庭の間で板挟みになるリンカーン。
決して聖人ではない彼の姿が、そこにあります。
議会での答弁に多数派工作…
アクションでもサスペンスでもない史実映画の本作ですが、クライマックスはまさに「手に汗握る」という感じで、かなりドキドキしました。