「際立つ「何気ない」SF感」LOOPER ルーパー キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
際立つ「何気ない」SF感
ずっと心待ちにしていたSF映画がやっと日本でも公開された。残念ながら、アメリカでも日本でも大ヒットというわけにはいかなかったが、内容そのものはどうだったのか。
「タイム・ループもの」はSF的には割りかしベタな設定で、その点については正直真新しさは無い。だがこの映画が最も評価されたのはその脚本であり、ひとつひとつの何気ない捻りが他の映画にはないスタイリッシュさと斬新さを生み出している。
まずルーパーの設定がなかなか面白い。未来から送られてくる標的が空間から忽然と現れた瞬間に、ばかでかい銃で即射殺するだけ。頭を打ち抜くわけでも、激しいドンパチを繰り広げるわけでもないから、至って淡々としている。しかしそれが逆に暗殺の生々しさを駆り立てている。ダサかっこいいラッパ銃の爆音が静かな畑に響き渡り、鮮血がほとばしる。ルーパーたちの破滅的な人生を象徴しているかのようだ。
その殺伐とした始まり方からストーリーは予測のつかない方へと展開する。現在のジョーはオールド・ジョーを殺すために奔走し、オールド・ジョーは未来の“レインメーカー”を探しまわる。この2人の関係が時間を追うごとに徐々に変わっていくのも面白い。ある時点で現在のジョーの目的が別のものになるのだが、そこからがこの映画の特徴的なところだ。あえてSF映画的な神学論に走らず、人間の愛情をメインテーマに据えてきた点はなかなか好感が持てた。
この優れた脚本に文句を付けるとしたら、2人のジョーの絡みが少ないことだろう。彼らがダイニングで会話をするシーンは映画の中でも屈指の緊張感を誇る。まったく同じ人物が対峙しながら、既に別の人生を歩んでいるから目的も性格も違う。時間の流れがいかに人間へ影響を及ぼすのか、それをたった数分間の中に描き出している。さらに、SF映画にありがちなタイムトラベルに関する説明を省くことで、反対に深淵なテーマを浮き彫りにすることに成功しているのだ。だからこそ彼らの直接対決をもっと増やして欲しかった。
脚本も素晴らしいが、それが引き立つのは俳優たちの絶妙な演技によるものでもある。まず挙げるべきは“ジョー”を演じたジョセフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリスだろう。顔も性格も似ていない2人がちゃんと同一人物に見えるのは、特殊メイクの力だけではない(このメイクは“ほとんど”上手くいっていた)。
レヴィットは無味乾燥な人生を生きる利己的な暗殺者をクールに演じている。彼は様々な出会いを通して少しずつ変化していくのだが、それが唐突に見えないのはまさに彼のおかげだ。現在のジョーとシド(オールド・ジョーに狙われる子供の1人)が隠れ場所で繰り広げる会話は、とても繊細で感動を誘う。
対するオールド・ジョーを演じたブルース・ウィリスは若いジョーに比べるとかなり冷静で、性格もだいぶ違う。なぜなら彼がタイムトラベルした目的はひとえに愛のためだからだ。その意志は固く、子供の殺害もいとわない。それなのに、初めの子供を射殺した後に見せる彼の苦悩に満ちた顔は正義と悪の境界を揺るがせるのだ。
彼らの脇を固める人々も見事な演技を披露する。エミリー・ブラントは初めは少々鼻につくものの、秘密が明らかになるにつれ、どんどんと魅力的な人物へと変わっていく。その息子シドを演じたピアースはまだ7歳なのに異常なカリスマ性を見せる。妙に大人びた言動と、たまに見せる子供らしい挙動、そしてかんしゃくを起こしたときの凄まじい怒り。どこまでも不気味なのに、突飛な存在には見えないところが確かな演技力を証明している。
ちなみにジョーの親友セスを演じたポール・ダノにはある見せ場が待っている。このシーンはとても鮮烈で、彼が演じたからこそ、チョイ役なのに存在感を発揮している。
どことなくレトロな未来感も私好みだった。すべてが発達しているわけではなく、むしろ世界は荒廃したディストピアと化している。だがそれが妙にリアルなのだ。生活の中にSFが溶け込んでいるから、ひとつひとつの演出にも説得力が生まれる。(ちなみに“古臭い”ジョーの服がかっこいい。)
この映画の公開はほとんどの映画館が今週には打ち切るだろう。本当に残念だ。こんなにも良質なSF映画はなかなかお目にかかれない。
(2013年2月2日鑑賞)