「山の下の王よ永遠に」ホビット 決戦のゆくえ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
山の下の王よ永遠に
公開されてから1ヶ月半経ってから言うのもアレですけど、
いやあ……終わっちゃいましたね、『ホビット』三部作。
高校の頃に夢中になった『ロード・オブ・ザ・リング』
から数えると実に14年。物寂しい思いでいっぱいですよ。
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悶絶するほどのクリフハンガー状態で終了した前作
だったが、開巻早々から9ヶ月待たされたストレスを
ブッ飛ばす超クライマックス級の見せ場!
黄金竜スマウグの放つ業火の凄まじさたるや!
そしてスマウグとバルドの、先代から続く因縁の対決。
炎ひと吹きで街の1/10を焼き尽くす巨大な怪物に、
たった1本の矢で立ち向かうバルドとその息子。
英雄である以前に優しい父親であるバルドの姿に、
まだ映画始まったばっかなのにもう目がウルウル。
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そこから先も見せ場見せ場の連続!
金の魅力に負けて堕落したトーリンの再起、
サウロン+ナズグルvs中つ国最強メンバー、
オーク軍と4種族連合軍による『五軍の戦い』、
タウリエルとキーリとのロマンスの行方、
トーリンとアゾグとの宿命の対決、
そして旅の仲間との永遠の別れ――
特にサウロンとナズグル達との直接対決には燃えた!
白のサルマン様もエルロンド卿も実はムチャクチャ
お強かったのですね。ガラドリエルの奥方なんて
なんかもう……サウロンよりお怖いですよ、特に顔が。
クライマックスで繰り広げられる
トーリンvsアゾグ × レゴラスvsボルグ のタッグマッチも、
上は氷上、下は橋上で目まぐるしく展開。
アイデア満載のものすごく面白いラストバトルだった。
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だがしかし……
前作・前々作より低いスコア4.0判定を今回付けたのは、
これまでに比べて語り口に余裕が無さすぎると感じたから。
まずエルフとドワーフが協力してオーク軍と戦う流れ。
どうもエルフとドワーフが成り行きで一緒に戦う羽目に
なっただけのように思えて、2つの種族が
協力して戦う理由に説得力が足りないと感じた。
急ごしらえの連合軍があんなチームワークを
発揮できるとはあまり思えないんです。
なので『中つ国の民vs闇の勢力』という大きな
スケールを僕はイマイチ実感しきれず終いだった。
エルフ王スランドゥイルの心情も
もう少し掘り下げてほしかったな。
慟哭するタウリエルとスランドゥイルのやりとり。
「どうしてこんなに辛いの?」
「それが本当の愛だからだ」
スランドゥイルは今回の悲惨な戦場を目の当りにして
妻=レゴラスの母の死を思い出したに違いない。
最後にタウリエルの悲しみを理解する優しさを
見せたのは、きっとその為だと推察する。
レゴラスとの確執が氷解するラストの為にも、レゴラス
の母への想いを伺い知れる描写がもっと欲しかった。
最大の不満点はトーリンの葛藤についてだ。
あれだけ金に執着し、誰の話に対しても聞く耳を
持たなくなっていた彼が、あんなにアッサリと
高潔な心を取り戻せた点に違和感を感じた。
仲間の心が離れていくことへの戸惑いや、そこから自分の
妄執に疑念を抱く流れがごっそり抜けてしまっているようなのだ。
なので、トーリンの復活に歓喜し、ドワーフ達が再び
奮い起つ重要なシーンに僕は今一つ熱くなりきれなかった。
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他にもスマウグの退場がややあっさりしているように
感じたり、『ロード・オブ・ザ・リング』までの間
ビルボが指輪の魔力に取り憑かれなかった理由に
触れて欲しかったり、サルマンが悪の道に堕ちた
経緯をもう少し詳しく知りたかったりと、
細かな不満がいくつもある。
今回は物語の最終章として、観たい場面はすべて観せては
くれるのだが、全体的にどうもあっさりし過ぎている印象。
後で気付いたが、実は今回の上映時間は144分。
『ロード』~『ホビット』で最短の上映時間だった前作
『竜に奪われた王国』よりも本作は更に17分も短いのだ。
(ちなみに最長は『王の帰還』の203分。1時間差(笑)。)
色々事情がありそうだが、このシリーズとしてはなんだか
物足りない。もっと長くても良いから全体をじっくり
描いて欲しかった。この壮大でエモーショナルな世界
に浸っていられるなら、僕はあと30分くらい長くたって
これっぽちも構わない。
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けれど一番大事だと思う部分、トーリンら
ドワーフ達とビルボの友情には号泣。
金に憑かれ、疑心暗鬼となったトーリンが唯一
柔和になるのはビルボと話している時だけだった。
別れのシーン、遠ざかるビルボをにこやかに見守る
ドワーフの仲間達の姿を見て、旅が終わってしまう、
この仲間達の顔を観るのも最後かと、寂しさに涙が出た。
いつも冗談めかして周囲を明るくしてくれるビルボは、
暗い雰囲気やしんみりしたムードが苦手なんだろう。
仲間の目の前でトーリンを「僕の友達だ」と
言い切れない。そこがすごく良い。
ビルボが地図に記した言葉。
『山の下の王ここにありき』。
何十年の時を経ても、ビルボにとってトーリンは誇るべき友人だったのだ。
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今までの出来が出来だけに点も辛くなってしまったが……
これほどダイナミックなスケールと細やかな人間味が
同時に描かれる大作映画は、やっぱり滅多にない。
大きな大きなスケールの物語の最期を、
小さな友情の言葉で締める。
この優しさが堪らなく素敵だと思う。
しかし残念ながら、壮大な物語はこれでひとまず終了。
この3年間、毎年とても楽しませてもらいました。
この作品に心血を注いだスタッフの方々に心から感謝!
<2014.12.13鑑賞>
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余談:
自分の解釈ではないので余談として書くが、
ビルボが“ひとつの指輪”の魔力に長年耐えられた理由について。
雑誌『映画秘宝』で朱鷺田祐介氏が書かれていた
解釈を読んで僕はなるほどと膝を叩いた。
『(アーケン石と黄金の魔力に対する)トーリンの
妄執を見たビルボは、自分が“ひとつの指輪”に感じた
こだわりが暴走した際の危険を知る』に至ったという解釈。
6部作におけるトーリンの立ち位置が
より重要なものに感じられる。
いやあ、人の欲望って恐ろし。 トーリンとビルボに
あらためて学ばせていただきました。
こんにちは♪
実に約3か月振りのレビューですね。
お待ちしておりました。
遂に終わってしまいましたね、「ホビット」シリーズ。
全く中弛みナシで、「ロード〜」も含め全6作描き切ったピーター・ジャクソンは改めて賞賛したいです。
(今度のアカデミー賞で、さすがに主要部門は無理だとしても、音響効果のみのノミネート、視覚効果にノミネートされていないのは納得出来ず…)
本当はもっと色々書きたい事あったんですが…
(ガラドリエル様の強さとか、最後スランドゥイルが見せた優しさとか)
文字数制限により泣く泣くカット。
個人採点では“5”としましたが、今思うと“4”で良かったかなと。
ほとんどその時のノリと勢いで点けてしまって…。
ちなみに3部作の中では、スマウグ登場の「竜に奪われた王国」が一番好きでした。
とは言え、大満足!
次なる楽しみは、レンタルされた時、「ロード〜」含め全6作一気見ですね!(笑)