「ルビーが教えてくれた明るい世界」ルビー・スパークス つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ルビーが教えてくれた明るい世界
キモい男を演じさせたら比肩するものなしポール・ダノと、エリア・カザンの孫で本作の脚本も担当しているゾーイ・カザンの、プライベートでも恋人同士である二人による甘々なラブロマンス作品。かと思ったら全然違ってた。
解説にはロマンチックなラブコメディと書いてあるけど、まあ見当違いだね。
序盤は笑えるしラブコメの雰囲気あったけど、中盤以降は確実に違う。序盤の気持ちのまま中盤以降も観ちゃった人は意味がわからず低評価になるかもね。
本作は、主人公カルヴィンの成長物語で、ヒューマンドラマだろう。
カルヴィンがキモいというレビューがチラホラあるけど全くその通りなんだよ。カルヴィンはキモいんだよ。
しかしそれで低評価になってしまうのは、経過だけ見て結果を見てないからなんだよね。つまり序盤のラブコメの気持ちのままってことだね。
人付き合いが少なく、自分の価値観を押し付け、他者の価値観を受け入れないカルヴィンが、ルビーと過ごしてどう変わったのかが大事なんであって、途中でキモいのはキモくないとダメなんだよ。むしろキモいと思えたのならポール・ダノの演技を褒めてほしいものだよ。
それと終盤、カルヴィンがルビーに対してする行為についてだけど、許せるか許せないかとか、ここまで一体何を見てたんだと言いたい。
あの場面は涙を流してもいいくらいの悲劇的なシーンなんだよ。作品のクライマックスシーンでしょうが。
なぜ悲劇的なのかわからないならあと5回くらい観直したほうがいいんじゃないか。
理想の女性であるルビーと出会ったカルヴィンは、何でも思い通りになることに不満を覚えた。それでは人形と変わらないからだ。だから書きかけの小説を封印した。
本当にルビーを愛し始めたカルヴィンは人形ではなく人間として存在して欲しいと願ったが、自由になったルビーは当然、カルヴィンの気に入らない行動もとるようになる。
離れられそうになり、思い通りにいかない事に不満を覚えたカルヴィンは再び書き始めるのだが、やはりそれも気に入らない。
そしてついに、ルビーに小説の秘密を打ち明ける。
人形でいて欲しくないカルヴィンと思い通りにしたいカルヴィンの矛盾する心が爆発し、次々に意味のない命令を書きまくる。
それは、小説の魔法を抜け出してルビーが本当の人間になることを強く願うように。ルビーが命令を聞かなくなるように。
しかしカルヴィンの想いは届かなかった。ルビーはどこまで行っても人形のまま。
タイプライターのピリオドの印字が大写しになり、ルビーは倒れ込んでソファーの陰に姿が隠れた。
カルヴィンが魔法のような今の状態に、正にピリオドを打った。人形のままのルビーに別れを告げ、終わりにしたのだ。
他者とは面倒な存在だ。しかしその面倒があるからこそ人間なのだ。
自分の価値観だけでは世界は開けない。殻にとじ籠っていては新しい小説も書けない。
古いタイプライターをしまい、新しいノートパソコンにかえ、モートに貰った気に入らなかった椅子に座り、明るい外に向かって執筆するカルヴィンの姿は、キモかった少し前とは違い、明るく前向きに生きているように見える。
他者を受け入れること、愛することをルビーは教えてくれた。
エンディング、ここまでの流れだと、最後に新しい恋人を予感させる相手が登場して締めるのがお決まりだが、あれだけ愛していたルビーと違う相手っていうのもなんだなと思っていたところに、ルビーそっくりの別人登場で、ああそうか、その手があったなと妙に納得した。