「亡くなられた方々への尊厳と敬意を込めて」遺体 明日への十日間 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
亡くなられた方々への尊厳と敬意を込めて
自分は福島の人間なので、あの日の事は生涯忘れないだろう。
被害状況が分かるにつれ、亡くなられた方の人数もみるみる増えていった。
我々はそれをTVのニュースを通して、ただの“死者数”としか認識していない。
死者が発見されたという事は、収容されたり身元が確認されたという事である。
そこにはどんな思いがあったか。
そんな知られざる現状を描いたのが、本作。
津波で深刻な被害を受けた岩手県釜石市の遺体安置所を取材したルポルタージュ本を基に映画化。
人によっては見るのが辛い映画でもある。
かなり生々しいシーンもある。
次々と死者が運ばれ、安置所は大混乱。怒号すら飛び交う。
現場に漂うのは、絶望、悲しみ、戸惑い、怒り…。
地獄絵図のような中で、尽力する人々がいた。
亡くなられた方は死者ではなく、ご遺体。生きている時と同じく、優しく語りかけ、接する。
彼らもまた同じ被災者。運び込まれてくる中には、友人やお世話になった顔もある。これは酷な事だ。
しかし、悲しみに暮れる暇はない。誰かがやらなければならないのだから。彼らの尽力が、遺族との再会と、遺族の心のケアにも繋がっていく。
震災関係の映画は決して少なくはない。
でも、そのほとんどが、“訴え”の映画である。園子温の「希望の国」は、過剰過ぎて嫌いだった。(真っ正面から挑んだ意欲は買うが)
震災そのものも原発事故もだが、もっと忘れてならないのは、不条理に命を奪われた方々の事。
悲しみを思い出させる映画を何故作った?…という非難の声もあるだろう。
辛い部分もあるが、ただ悲しいだけの映画ではない。
亡くなられた方々への尊厳と敬意を込めた真摯な人間ドラマである。
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