「観て考えるべし。」遺体 明日への十日間 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
観て考えるべし。
もうすぐ2年になる。
震源地から離れているにも拘らず、あの日の地震の大きさは
おそらく一生忘れないだろう、と思うほど凄まじかった。
その後多くの人命が津波によってさらわれた事実をニュースで
知ったが、現場にいない限り、実際の被害は伝わらないだろう。
そんなニュース報道でしか知り得なかった地元の方々の真実が
フィクションでありながら正確に伝えられることには意義がある。
なので今作には物語の完成度を問うことはできない。
あの日何が起こって、それからどんなことが為されたかを知り、
各々が想い考えることが大切なのだろうと思う。
震災からしばらく経って、こちらで計画停電が行われていた頃、
とある看護師の方のブログが話題になったことがあった。
被災地に派遣され、今作のように救援活動にあたったその方の
ブログに記された内容で一番記憶に残ったのが、瓦礫をめくると
その下に何百何千もの遺体が広がっている、という記述だった。
戦後生まれの私はもちろん、そんな光景を実際に見たことはない。
それがどれほどのショックだったかが文面から伝わり、
パソコンの前で固まってしまった。計画停電如きで騒いでる自分が
あまりに情けなくて、みじめに思えるくらい恥ずかしかった。
震災が起きたのは誰のせいでもない。
自然が齎した災害を前に、どうしてこんな?ばかりが頭に渦巻く中、
身内を失っても悲しんでいる間もなく懸命に救援にあたらなければ
ならない人が大勢いたのである。
西田敏行が、普段の西田敏行だったのが演出なのかは分からないが、
ボランティアや医師、職員を含め皆黙々と疲弊しながら働いていた。
検死をする医師が休む間もないほど足りないのは一目瞭然、
次々と運ばれてくる遺体を前に懸命に床の泥除去を行う女性職員や、
遺体搬送トラックで呆然としている作業員、麻痺した行政と被災地を
行ったり来たりする職員、遺体を棺に納め火葬場稼働を待つ葬儀屋、
泣きたくても涙すら流せないほど忙しい状況の中、せめて焼香台をと
設置する日本人ならではの心配りは大したものだ。ここへと運ばれた
遺体は、手厚く安置され送り出されて、まだ幸せだったのではないか。
未だに判明していない震災被害者も数多い、遺族の心労は続いている。
劇中で、救援物資(食糧)がボランティアにはまったく振舞われないのを
見せていたが、今作で西田が演じた民生委員・相葉ですらそうだったと
いうのに驚いた。確かに助かった人間(住む家も家族も失っていない)と
いうのは分かるが、現場で指揮をとる人間にすら一つも出されないこと
には、どうなんだろうという気がしてならなかった。働く人間が倒れたら
被災地の現場はやっていけるんだろうか。家でお腹を空かせている妻に
持って帰るから、とポケットにしまった彼もリアルに描かれていたと思う。
とにかく災害から間もない状況(十日間)ということは、
何がどうなるのか、どう動くのかも分からない状況というのは見てとれる。
こんなに多くの犠牲を出した震災以降、日本の災害意識は更に高まった。
だけど日々暮らしていく中で、喉元過ぎれば…は避けられない。
毎年こうやって(思い出したくない方もいると思うけど)災害問題は風化
させることなく見せて教訓としなければならない事実だと改めて感じる。
(演技以上に辛かっただろう、俳優陣の素の表情から伝わるものを感じる)