「ユースのオーディションに賭ける子供と親たちの「挑戦」。 そして「舞台裏の物語」。」ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ! きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ユースのオーディションに賭ける子供と親たちの「挑戦」。 そして「舞台裏の物語」。

2025年1月21日
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鑑賞方法:VOD

YAGP =ユースアメリカングランプリ。
これは、僕はYoutubeにチャンネル登録してあるので、新しい動画が次々と僕のスマホに届く。
原石たち。まったく素晴らしい。

「孤児ミケーラ」
孤児だ。アフリカの内戦で両親を撃ち殺され、孤児院にいたミケーラ。養子にもらわれて行った先で、雑誌で見ていた夢のバレリーナを目指す彼女なのだ。奨学金を獲得して養父母を助けたいのだとミケーラはつぶやく。
黒人のマッシブな身体で欧米の舞踏界に旋風をもたらす事ができるのだろうか。

「出稼ぎのジョアン」
コロンビアのジョアンは出稼ぎだ。母親からの電話でも出稼ぎ労働者としての大成をもとめられている。必ず金持ちになって家族を養ってくれとあからさまに頼まれる。念を押されている。
レッスン中は晴れやかな少年の顔も、母親と話したあとは曇っている。

「レベッカの家はお金は有る」
レベッカの両親は、レベッカ本人を前にしてどれだけの資金を娘につぎ込んできたかを、具体的に金額を列挙して取材班に話す。
車を乗り回し、CHANELのピアスをし、TIFFANYでブレスレットを買う女子高生だが、レベッカは親たちの圧倒的なサポートの約束を聞いて、無邪気に喜んでいる。

その他にも、何人もの受験生たちの素顔が、その親たちの強烈な応援態勢の姿と共に登場する。
アラン、ガヤ、ミコと幼い弟・・。

「オーディションもの」のドキュメンタリー映画は、ジャンルとしては面白いけれど、ちょっとイタい。
選に漏れた出場者の表情を我々は目撃することになる。
そして出場する子供たちにすれば、出資者=親や養父母をがっかりさせた時がどんなにか怖いことだろう。

「素質、体格、そして資力」というオーディション以前の段階で、そもそも「ふるい」にかけられている若い魂と、そこに血眼になっている大人たちの様子は、
これは事実ではあるのだろうけれど、
見ていてあんまり楽しいものではないのだ。

(実際、バレエを続けるためには、そして、ましてやプロになるためには大変なお金がかかるのだ。
ドキュメンタリー「マイコ、再びの白鳥」でも、西野麻衣子の両親は家を売って娘のレッスン代を工面した)。

シチリアからNYCへと、世界を転戦するチャレンジャーたち。
コンクールの画像に僕は思わず声を出し、身を乗り出して拍手してしまうが、
かたや思い出したくもない「踊り子」という職種の悲しい歴史の事も、僕はやはり考えてしまった。
以下 ―

纏足。京劇の旅一座に売られる幼児たち。去勢される宦官。カストラート。これらは
《美の基準》のために肉体改造を施されてきた子供たちの歴史だ・・
「踊り子」たちや「芸人」たちが、お客様やパトロンからお足をもらうためには、そして子供たちが披露する見事な芸事の裏側には、実は甕一杯の涙が流されているのだと 、このドキュメントは語る。
「お遊びではないです」と言いたいのだろうが、
自身バレエダンサーであったというベス・カーグマン監督の、その彼女による“裏舞台あばき”は、なんだか辛くて、そしてダークでもあった。

ダンサーはエトワールになれば大金持ちだし、世界の花形にはなれるだろう。
でもその裏側では、残酷だけれど、体で稼ぎ、生き抜くためには仕方なかった、かつての越後獅子や津軽の流しの瞽女と
も繋がった、
これは痛々しい芸人哀史の世界でもあるのだ。

・ ・

バレエ関連の映画は、近年目白押しだ。
「リトル・ダンサー」にもレビューし、コメント欄にも詳しく書いたけれど、
僕が小学生の頃通ったバレエスクールには6年生のMさんという人がいて、2年生の僕から見ていてもその彼女の踊りは群を抜いていたっけね。
後年彼女が東京のバレエ団に入っていた事を知り、嬉しかったのを覚えている。ご両親はきっとお金を工面なさったのだろう。
どうしているだろうかなぁー
「適当なところでやめてもらわないと困るんだよねぇ」とこぼしていた親御さんの事も、僕は知っている。

タイトルの
「ファーストポジション」とは、もちろんバレエの基本の、最も最初の一歩の立ち姿のことだ。
片手でバーを取り、まっすぐこちらを向いて立つだけの基本姿勢。
お金はかからない。0円の姿。

しかしスタートラインの時点ですでに様々な「ふるい」にかけられる子供たち。
だからこの《ファーストポジション》という題名は
=イコール「オーディションを受けられる境遇の子の《スタートライン》」としても
彼らの ラッキーorアンラッキーを、同時に表していた。

しかし、それでもだ、
いろいろはあるが、
彼らの踊りはとっても良いし、ドキュメンタリー映画としての完成度は非常に高い。見る側の胸も高鳴って仕方ない。

撮影、編集、音楽もパーフェクト。
星5つ。

きりん