「地味な作りに反して、情熱的な人々の再生のドラマが心に響きますよ」最終目的地 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
地味な作りに反して、情熱的な人々の再生のドラマが心に響きますよ
流石はジャームス・アイヴォリー監督作だ。人間の生涯で最も複雑で、しかも難解であるテーマと言えば、人間関係に尽きると思う。
誰でも人間は、自己の人生に於いて人間関係を巧く扱う極意を身に付ける事に成功出来たとしたら、もうその人は人生の大半を成功させたと言っても過言ではないと思う。
何故なら、人は他人に活かされて、その人間関係から、自己認識が生れ育ち、成長していくものに他ならない、それこそが人生だと私は信じて疑わないからだ。
この作品でも、80歳を越えているアイヴォリー監督が実に鮮やかに、人の目にも見えず、そして決して手に取る事も出来ない愛情と言う、人間の心の中にしか存在しないエネルギー体である、人間の本質である愛を情熱的に見事に描き出している。
今は亡き一人の作家の伝記の執筆を望むアメリカの若き伝記作家の突然の訪問を受け入れた事から生れる、新たな故人に対する心の変化を、実に軽妙に描いていく。
しかもこの作品の面白さは、今では故人となった亡き作家の人生に深く関わって来た人々の現在から、故人に対する愛情と言う過去の出来事を表す事にも回想シーンを一切排除している点が興味深い。
全編、愛の認識の違いや、それぞれの立場の相違から生じる、故人に対する気持ちの相違を丁寧に描き出し、しかも今現在を生きている人の心の中に自然と芽生える、時の経過と共に変容する、愛の不思議な姿を巧みに焙り出しているのだ。
その様な人間認識で必要不可欠な、様々に異なる愛の姿を描く事で、人々の多様性とそして、時と共に変化する生き様を描く事で、作品を観る人達の心に常に毎日が変化する可能性を持つ、素晴らしい可能性に溢れている事を見事に伝えてくれて、私の心も捉えて離さない作品だった。
80歳を越えている高齢の監督作品とは思えない、常に生きる事への情熱的な愛の表現が全編にあふれていた。
ファーストシーンの南米の情景に音楽が重なり合う中で、これから始まる物語の奥深くそして、穏やかなラストを予感させていた。
そして、このラストがまた、それぞれが、各々の最善の希望を掴む事が出来た、新しい目的地にたどり着くと言う、ハッピーエンドが心地良く、大好きな終焉だった。
特に妻キャロラインと伝記作家オマーの恋人だったディオドラの再会のシーンが特に素晴らしい余韻を残してくれた。
妻キャロラインは、気難しく、本心を中々打ち明ける事をしないが、彼女の本当の泉から湧き出るような深い愛情をローラ・リニーが見事に抑えた芝居で魅せてくれて最高だ。
何せ、愛人とその娘と同居している訳なのだから。キャロラインの本質は非常に懐が広く誰に対しても本当は情熱的でも、それを表に出さない彼女の生き方に胸を打たれたね!