マジック・マイク : 映画評論・批評
2013年7月30日更新
2013年8月3日よりシネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー
ストリッパーへの好奇心が共感へと変わる青春ドラマ
チャニング・テイタムのストリッパー時代の実話に想を得た企画だが、“BASED ON TRUE STORY”のテロップはなし。スティーブン・ソダーバーグの作品としては、高級コールガールが主人公の「ガールフレンド・エクスペリエンス」に続く“ちょっと特殊な職業観察シリーズ”第2弾なんて見方もできそうだが、今回はドキュメンタリー調の演出を避け、題材とお話の面白さを伝えることに徹している。要するにオーソドックスな青春ドラマなのだ。
その普通っぽさが実にいい。観衆の女性たちにつかの間の非日常的狂騒を提供するド派手なショーの場面をふんだんに盛り込みながら、推定30歳の売れっ子ダンサー、マイクの享楽と孤独をさらりさらりと描いていく。欲望や愛憎渦巻く風俗業界の裏側までも、さらりとドライに。それでいて夢や成功の甘美な香りに吸い寄せられる新米ダンサー(アレックス・ペティファー)、酸いも甘いもかみ分けた怪物的なクラブ経営者(マシュー・マコノヒー!)といった脇役キャラとのコントラストは鮮やか。人生の曲がり角に差しかかった悩めるマイクの“普通っぽさ”が相対的に浮かび上がり、ストリッパーへの好奇心はいつしか共感へと変わる。
やがてきらびやかな虚構と乾いた現実の間を浮遊するマイクの物語は、ひとりの女性とのラブ・ストーリーに着地する。主人公が惚れた相手をディナーや酒に誘うシーンはよく見かけるが、この映画は珍しくも“朝食”をめぐる洒落た会話で幕を閉じる。その慎ましくも清々しい余韻に浸りつつ、抜け目のない筆者がすかさず頭の中でメモをとったことは言うまでもない。
(高橋諭治)