クラウド アトラス : 映画評論・批評
2013年3月5日更新
2013年3月15日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
壮大なスケールで人類の有り様を描ききった、6つの物語からなる映像叙事詩
「マトリックス」のウォシャウスキー姉弟が完全復活! トム・ティクバも共同で監督した本作は、転生をベースに、時代も場所も異なる6つの物語を平行して交互に綴り、壮大なスケールで人類の有り様を描ききった映像叙事詩だ。
当初、テイストも異なる6つの物語はバラバラに始まる。だが、考え抜かれた舞台転換は流れるように自然で、19世紀の弁護士が記す航海日誌を20世紀の作曲家青年が読むなど、どこかでさりげなくつながっていく。また、主要キャストは、6つの物語で別キャラを演じ(性や人種が違うキャラをも熱演!)、観客は生まれ変わりを何気なく感じ取る。そのため、いつしか神にでもなった感覚で、目の前で見事に同時に盛り上がっていく6つの物語を、その中で懸命に生きる人々を見守ってしまう。各物語で未来を開くキャラには、体のどこかにほうき星の痣(あざ)がある演出も心憎い。
しかし、映画は前世の記憶やカルマには深入りせず、人々がさまざまな形で時空を超えてつながっていることを示すに留める。キャラたちが語る既視感が暗示するように魂は不滅かもしれない。そう思えば死は終わりではなく、新たな扉を開く瞬間となる。こうして転生を真理にはせず、希望にした点が好ましい。
さらに、それぞれの物語では、人間の素晴らしさと愚かさ、強さと弱さ、愛と孤独を対峙するキャラたちの言動でていねいに描く。そして、知識や勇気、仲間や愛の支えによって人は変わり得ることを重ねて示すのだ。
欲望を抑えきれない人類は今後も過ちを繰り返すだろう。だが、それを正そうとする人々も必ず現れる。ならば自分はどう生きるか? これまで見たこともない夢のような映像世界に身を任せ、“人間”を楽しみたい気持ちにさせてくれる秀作だ。
(山口直樹)