「よくある話で平凡 これでいいのか」夏の終り マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
よくある話で平凡 これでいいのか
知子は一つの殻に閉じ込もっていられない、内に秘めたエネルギーの強さを持つ。夫と子どもがあっても好きな男のもとに走るのは、ひとりの女としてたった一度の人生を生きている証しであり、ふしだらの一言では片付けられない本能的な生きる力を感じる。
そんな知子が愛するのが作家の慎吾。妻がいて、双方を等分に行き来する生活を送る。本来書きたい作品は売れず、多くを語らず、優柔不断な男に惚れてしまうのは何故だろうと考えたところで、これは他人には分からないこと。
それに比べたら、一度は駆け落ちして別れたものの涼太なら無条件で一緒になれる。
魂そこにあらずといった風情の小林薫が上手い。綾野剛も惚れた女がいつまでたっても自分ひとりのものにならないもどかしさに苛立つ男を上手く表現している。
満島ひかりもそれなりに頑張っているが、恋愛経験の不足からか身悶えするような情念が迫ってこない。
男の妻から所要の電話まで受けるのは、屈辱ではないのか。お互い、立場を理解しているなどと綺麗事ではすまされまい。
熊切和嘉監督の演出に“張り”を感じない。
受話器の向こうで妻が曖昧な笑いをこぼすシーンが、かろうじて二人の女の間にある刺を感じさせるぐらいだ。
一緒に暮らした男と女が別れるには相当のエネルギーが必要だ。敢えて女はそれに立ち向かうのか、どうもイライラ感も期待感も募らない。
男と女の関係を描いた作品は数多あるが、当人にしか分からない激情を何の工夫もなく絵にした映画ほど退屈なものはない。
たとえ破断する恋であろうと、未来に希望がある話のほうが性に合っている。
機会があったら本を読んでみたい。
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