「激動の中で精一杯に愛して生きたことを歌いあげた音楽の力と説得力に凄み」レ・ミゼラブル(2012) Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
激動の中で精一杯に愛して生きたことを歌いあげた音楽の力と説得力に凄み
トム・フーパー 監督による2012年製作(158分/G)イギリス映画
原題または英題:Les Miserables、配給:東宝東和、劇場公開日:2024年12月27日、
その他の公開日:2012年12月21日(日本初公開)。
ずっと見たいと思っていた映画なので、今回デジタルリマスター版として映画館で観れたのは、とても幸せに感じた。セリフまで歌で表現するミュジカルとは知らなかったが、音の良さもあり、俳優たちの感情が込められた歌声に涙、又涙。
娼婦に堕ちてしまったヒロイン・コゼットの母ファンテーヌ演じたアン・ハサウェイによる「夢やぶれて(I Dreamed a Dream」。早々とココで唄ってしまうのかと驚き、多くの人達がこの唄を歌うのをさんざん聞いてきたのに関わらず、涙が溢れた。長い髪をバサリと切り取り美しくもかなぐり捨てたハサウェイが大口を開けて、魂を搾り出すような歌う表情と声に痺れてしまった。彼女はここで亡くなってしまうが、最後の方で再度天使の様なかたちで再登場するのには、救いを感じた。
そして、コゼットを恋する学生闘士マリウスに片想いし続けるエポニーヌを演じたサマンサ・バークスによる「On my own」。雨降る石畳の街路、圧倒的な歌唱力で愛する気持ちを唄いあげた歌詞は切なくそして崇高でもあり、涙腺はとどめを刺された様に止まらなくなってしまった。
恋心を抑えながらマリウスがコゼットに会うことに一役かいながら、生活上でも恋愛においても恵まれず、革命運動の中マリウスを庇って銃弾にあたりマリウスの腕の中で息を引き取るエポニーヌ。そんなひたむきな愛に生きて・死んだ彼女に大きくスポットライトを当てたところに、本作の偉大性を感じさせられた。
ビクトル・ユーゴーによる原作は、子供用の世界名作シリーズ「ああ無情」というかたちで読んだ覚えは有るが、後半のストーリーはあまり覚えていなかった。ヒュー・ジャックマン演ずるジャン・バルジャンが、コゼットを子供として養育していくことで、愛する心を再生していく様は、年を重ねたおかげか心に染み渡った。
そして、悪人は変わらないとの信念の元、囚人であったジャン・バルジャンをどこまでもどこまでも追い詰めようとする警部ジャベール(ラッセル・クロウ)。そんな彼の命も救おうとするジャン・バルジャン。邦画ならそこで手を取り合って和解しそうな展開だが、激流に身を投げて自殺してしまうジャベール。彼こそが主人公の裏返しの存在、革命時であっても変われない多くの人間の象徴ということなのか。その冷徹な設定に、フランス文学的なリアリティを感じさせられた。
後半の六月暴動(1832年6月に起きたパリ市民による王政打倒の暴動)をモデルにしたといわれてる学生中心の組織と政府側兵士との激しい闘い。一般パリ市民の協力も無く、ジャンに救われたマリウスを除き、路上暮らしの少年ガヴローシュ(ダニエル・ハトルストーン)も含めて組織の仲間全員が死体となってしまう。史実に近いとは言え、相当に衝撃的であった。改革を夢見て敗れ去っていった若者たち。自分には信仰心は乏しく十分に腹落ちできてはいないが、少年ガヴローシュの遺体に警部が勲章を添えた様に、彼らの志し・純粋な魂こそ、讃えるべきものということらしい。
監督トム・フーパー、製作ティム・ビーバン、 エリック・フェルナー 、デブラ・ヘイワード、 キャメロン・マッキントッシュ、製作総指揮アンジェラ・モリソン 、ライザ・チェイシン 、ニコラス・アロット、 F・リチャード・パパス、原作ビクトル・ユーゴー、原作ミュージカルアラン・ブーブリル 、クロード=ミシェル・シェーンベルク、原作ミュージカルプロデュース、キャメロン・マッキントッシュ、脚本ウィリアム・ニコルソン、 アラン・ブーブリル、 クロード=ミシェル・シェーンベルク 、ハーバート・クレッツマー、撮影ダニー・コーエン、美術イブ・スチュワート、衣装パコ・デルガド、編集メラニー・アン・オリバー クリス・ディケンズ、作曲クロード=ミシェル・シェーンベルク、作詞ハーバート・クレッツマー、音楽監修ベッキー・ベンサム、音楽プロデューサーアン・ダドリー クロード=ミシェル・シェーンベルク、キャスティングニナ・ゴールド。
出演
ジャン・バルジャンヒュー・ジャックマン、ジャベールラッセル・クロウ、ファンテーヌアン・ハサウェイ、コゼットアマンダ・セイフライド、マリウスエディ・レッドメイン、アンジョルラスアーロン・トベイト、エポニーヌサマンサ・バークス、イザベル・アレン、ダニエル・ハトルストーン、司教コルム・ウィルキンソン、マダム・テナルディエヘレナ・ボナム・カーター、テナルディエサシャ・バロン・コーエン。