「原作舞台には劣る」レ・ミゼラブル(2012) 愛媛みかんさんの映画レビュー(感想・評価)
原作舞台には劣る
これは小説をもとにした映画ではなく「小説をもとにした舞台をもとにした映画」であり、ストーリーもセリフ(歌)もほとんど舞台そのままであることを考えると、舞台を観たことがあれば比較しない訳にはいかない。それで考えると、どうしても舞台には劣る。2時間30分という長丁場に対する楽しさが得られるかというと微妙だ。
1、歌=セリフがいまいち
レ・ミゼラブルはすべてのセリフが歌という、ミュージカルのなかでも特徴的な作品。
その主要人物を演じるにしては歌唱力が低い。
2、映画ならではの構成がない
舞台ではワンデイモアは1幕の締め括りとして、それぞれの拠点にいる主要登場人物が、それぞれ異なる歌詞で明日の希望を歌う。彼らは設定上は異なる場所にいるのだが、実体としての演者は舞台上のすぐ近くにいる。それが普通なら同じ歌詞を歌うところが、それぞれが異なる歌詞を歌うのが迫力と盛り上がりを作っている。しかしこの映画ではあくまでも登場人物は別の場所にいて、次々にカットを切り替える。歌声もその場その場の描かれている人物がメインで、響き合うことがない。それでは、さまざまな人物が違う思いを抱きながら同じ1つの明日を待つという魅力が描けていない。また、舞台ではこのあとに休憩が入って余韻を残し民衆の歌で2幕があけて盛り上がるが、この映画ではそのまま続いてしまい起伏に欠ける。
また、バルジャンやファンテーヌの死のシーンやマリウスとコゼットの恋愛は、舞台なら勢いで押しきられる感がありが、映画では一歩ひいて観てしまうので、そんなすぐ死ぬような様子じゃなかったでしょとか君らまだ手も繋いでないよねとかツッコミが先にたってしまう。
それは舞台と映画という異なる表現であるがゆえの制約ではあるが、それでもこの映画は舞台を元にして作られている以上、舞台じゃないからできないではなく、映画ならではの表現をみせてほしかった。実際にはただの舞台の劣化コピーになっている。
3、絵作り
民衆の歌のシーンは、舞台にはないバスチーユの象を印象的に使った良いシーンだった。
バルジャンが仮釈放証を破り捨てるシーンも山深い教会の広がりが見えて良い。
ただ、それ以外のシーンでは、この絵が印象に残るという場面がない。俳優のバストアップを多用しているのが単調な絵づくりの原因に思う。宿屋のシーンは画面がごちゃごちゃしていて観づらい。ガブローシュやエポニーヌが死ぬシーンはもうちょっと何とかできなかったのか。
4、舞台にはないシーン
敗色濃厚になった革命学生が民家に逃げようとするが、住人は扉を固く閉じるシーンがある。舞台にはないシーンで、戦闘前はあんなに盛り上がっていたのにあっさり掌を返される、とてもいいシーンだ。
このように映画独自のいいシーンがいくつかあるのだが、セリフは普通に演技してしゃべっている。レ・ミゼラブルはすべてのセリフが歌というミュージカルなので、追加シーンだけが歌わずにしゃべっているということになり、違和感がある。
総じていえば、名作舞台を原作として作った映画だが舞台を超えられていない。舞台ならではの強みに対しては劣化コピーになってしまっており、映画ならではの強みを表現できていないわけではないが充分でない。