「夢つかんで。」レ・ミゼラブル(2012) ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
夢つかんで。
ミュージカルの最高傑作が満を持しての映画化。
しかも監督はあの、T・フーパー。
賞を獲る気満々で(もちろん想像ですが)挑んだとも思える、
俳優自身にほぼ全編歌唱させての大長編ミュージカル映画。
名優巻き込んでのオーディションで選ばれたという主演三人、
H・ジャックマンは舞台経験が豊富でトニー賞の常連だし、
A・セイフライドはあの「マンマ・ミーア!」での歌唱が記憶に
残るのだが、A・ハサウェイがどのくらい歌えるのか分からず、
ただ、予告編で常に流れていたあの名曲(夢やぶれて)がかなり
上手かったので期待していた。
(S・ボイルで更に有名になった歌曲、意味を踏まえて聴くとまた)
…かなり圧巻。ビックリ。ここでほぼ満席の観客が泣いていた。
プロの歌手に歌わせての吹替えではないところ、
また、従来の録音のように事前録音に口パクで合わせるでもなく、
リアルに歌わせつつ演技をさせるという新しい試み、
私は映画もミュージカルも(あまり舞台には縁がないけど)好き
なので、息使いを感じる歌唱がよりリアルで良かったと思う。
何度も舞台を踏んでいるプロ(今作ならS・バークス)の歌唱は
確かに素晴らしく、演技をしながらの声量とあの説得力には
たかが俳優陣(ゴメンね)を凌ぐパフォーマンス力が観てとれた。
あそこまではいかなくても^^;(R・クロウはそれなりだったもんね)
よくぞ頑張った、とすべての俳優陣の労をねぎらいたい。
物語は(現代では古臭く当たり前感の)王道をいく大河ロマン、
ほぼ万人が内容を熟知し、何曲かはどこかで必ず聴いている
大衆作品を、改めて映画化することの意味は何だったのだろう。
J・バルジャンの数奇な人生を辿る物語は、
フランス革命を背景に市民の格差や貧困問題を浮き彫りにしている。
後半、学生達が引き起こす革命とその失敗は、
市民の無関心(あゝ無情)という最大の汚点と、
慈愛に満ちた奉仕の力いう対照的な人間の側面を交互に炙り出す。
私は個人的にこのバルジャンという(決して英雄ではない)男の持つ
姑息で不器用な生き方がけっこう好きだ。(逃げたりまた現れたりと)
妹の子供にあげるパンを盗んだだけで19年間も投獄され、
その後も執拗に仮釈放の自分の身を追い続けるジャベールによって、
精神のバランスを崩されつつ、銀の燭台(ずーっと持ってるんだよね)
をくれた老司教の慈悲に逆らわず、いい人間になろうと努力し続ける。
自分を追い詰める警部を逃がしたり、他人の娘を引き取って育てたり、
「俺はいい人間だ」というより「いい人間になりたいんだ」を切に訴える
不器用な優しさが逆に悪徳人間達を追い詰めていくのだ。
正義を振りかざす人間が果たして万能かというとそんな時代でなく、
エポニーヌの両親(この二人、あまりに堂に入ってたわね^^;)のように
浮き沈みを繰り返し、娘を失ってもまだやるか!という不敵な根性を
持ち合せなければ生きられない時代に、どう立ち回って生きるのが
賢いのかを見せつけてくるような話でもある。
とはいえ選びようのない貧富の格差はおぞましく横たわっているが。
名曲「オン・マイ・オウン」「民衆の歌」など、これまで何度も何処かで
聴いたことがある曲のオンパレードと共に、冒頭からずっと背後では
囁くような低い旋律で音が紡がれている…この旋律は最後までずっと
この物語を牽引し続けていくのだけれど、監督がミュージカルに拘って
作りあげた心根がこういうところに感じられてとても嬉しくなった。音の
流れを止めてしまっては、この物語は台無しになってしまう。楽曲と
台詞が低い旋律で滞ることなく繋がり、大河ドラマを盛り上げていく。
日本の大河ドラマも(音楽には拘っているみたいだけれども^^;)
必ずしも思惑通りにはならない様で。まぁ題材にも因るから仕方ないか。
人々の無関心や貧富の格差が無情に吹き荒ぶ中、
神に学びし慈悲の御心を宿した人間たちの新たな人生とその指針の行方、
どこで自分の人生を悟り、どう切り拓いていくかは自分次第、しかし
人生がどんな最中にあっても他を重んじ、自らを鍛え抜く精神力を持て。
…つまり私には何一つ合致していない崇高な物語になるんだけど^^;
だからこそ、こういう大作をこの年末年始に観ておいて良かったと思う、
新たな年の幕開けに相応しい佳作。
(夢やぶれてで夢を掴んじゃった人もいるからね。まだまだ人生は尊し!)