レ・ミゼラブル(2012) : インタビュー
アン・ハサウェイ、1年を振り返り「世界の頂上に君臨している気分」
2012年、30歳の節目の年を迎えたアン・ハサウェイは、クリストファー・ノーラン監督「ダークナイト ライジング」でキャットウーマンを演じ、プライベートでは3年交際していたアダム・シュルマンと結婚した。間もなく公開されるトム・フーパー監督「レ・ミゼラブル」では、舞台女優だった母がかつて演じたというファンテーヌ役を獲得し、見事ゴールデングローブ賞にノミネート。肉体的にも精神的にも自分を追い込んだこの特別な役柄と、公私ともに充実した1年を振り返った。(取材・文/本間綾香 写真/本城典子)
演じるのが怖い役柄ほど、身震いと同時に喜びを感じるというアン・ハサウェイ。ミュージカルの傑作と謳われる「レ・ミゼラブル」、娘を養うため娼婦へと身を落とすファンテーヌ役は、世界中の観客に長い間親しまれており、彼女にとっては挑みがいのあるハードルだった。
「ミュージカル映画だから当然、歌の訓練はしたわ。でも、テクニックを強化するトレーニングを数カ月しているうちに、曲に慣れすぎてはいけないという不安を感じ始めたの。だから、途中からファンテーヌが歌う曲と似たキーの曲、たとえば『ミス・サイゴン』のナンバーを練習した。同じ作曲家(クロード・ミシェル・シェーンベルク)だからね」
歌の特訓と並行して、11キロという過酷な減量に挑み、艶やかなロングヘアもばっさりと切り落とした。
「『レ・ミゼラブル』はこれまで何100万という人が舞台を見て、ファンテーヌが髪を切ることを知っている。そして、それはカツラであるということもね。今回はキャラクターの身体的な犠牲をリアルに見せるチャンスだし、そうしなければいけないと思ったの。舞台ではできない、映画ならではの表現だから。監督からは “本当に大丈夫?”と確認されたけれど、彼も私が切るつもりだと気づいていたと思う。私は信じて決めたら突き進む性格だし、女優がとても華やかでグラマラスだと思われていることに違和感を覚えるのよ。演じていて面白さを感じる役柄ほど、そういったきらびやかなイメージとはかけ離れているから。着飾ってレッドカーペットに立つよりも、スクリーンでみじめな姿を見せている方がよっぽど興奮する。そのほうが人間としてリアルな気がするの」
ファンテーヌが劇中で歌う「夢やぶれて」は、この映画の最大の見どころのひとつだ。初めて客に体を売った彼女が、絶望に打ちひしがれ声を振り絞るさまに、トム・フーパー監督をはじめその場にいたスタッフたちは圧倒されて言葉を失くし、その場に立ち尽くしたという。
「ファンテーヌは映画の前半で命を落とすけれど、彼女の存在感はその後の物語にもずっと色濃く漂っているのよね。完成した映画を見てそう感じたし、うれしかったわ。私はこれまで、誰もが認める優秀な監督たちと仕事をしてきたと思う。彼らはみんな際立った個性を持っているわ。トムについて私が感謝しているのは、彼が共感してくれるということ。思いやる気持ちが深いのよ。ファンテーヌが精神的につらい状況を演じるときは、私の横にきて手を握り、一緒に涙してくれた。私=ファンテーヌがそのとき味わっていた心の痛みに、寄り添ってくれたの。彼は一見穏やかな人だけれど、内側はとても情熱的。正直、彼でなかったらこのような作品にはとても仕上がらなかったと思う。でも、ヒュー(・ジャックマン)や他のキャストみんなで話しているの。確かにトムは現場にいたけれど、今でもどうやって彼がこれを完成させたのか謎だよね、って」
今年は「ダークナイト ライジング」のキャットウーマン、そして本作のファンテーヌと、2つのアイコニックなキャラクターを堂々と演じきり、私生活ではかねて交際していた恋人とロマンティックな結婚式も挙げた。
「私のこれまでの人生で、いちばんお気に入りの年になったわ。世界の頂上に君臨している気分よ。仕事で素晴らしい成功を収めることができて、なおかつそれを上回る幸せをプライベートで得ることができた。これからも女優として、やったことがないテリトリーのものに挑戦したい。自分の感性に響くものなら、なんだって興味あるわ。男の役だって演じるかも(笑)。とにかく、いちばん厳しく難しい役柄にチャレンジしたいのよ」