劇場公開日 2012年11月9日

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シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語 : インタビュー

2012年11月7日更新
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ジェームズ・キャメロンが「シルク・ドゥ・ソレイユ3D」で果たした、もうひとつの“任務”

世界最高峰のパフォーマンス集団として知られるシルク・ドゥ・ソレイユの初の映画をプロデュースしたのは、ジェームズ・キャメロン監督だ。ラスベガスで公演中の7つのショーを背景に、アンドリュー・アダムソン監督が織りなすファンタジーストーリーを、キャメロン監督は最新の3Dカメラシステムで完全バックアップ。究極のパフォーマンスを、まるでライブで見ているかのような臨場感で再現することに成功している。本サイトは、多忙を極めるキャメロン監督にニューヨークで単独取材を敢行。企画にかかわったきっかけから、3D映画の現状、そして現在、準備中の「アバター2」と「アバター3」についてまで、たっぷり話をきかせてもらった。(取材・文/小西未来)

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――以前から「シルク・ドゥ・ソレイユ」のファンだったのですか?

「その通り。80年代にはロサンゼルスで最初の公演が行われていたから、欠かさず見ていた。それで、彼らのショーを3D映画として記録するアイデアを思いついたんだ。『アバター』の撮影後、シルク・ドゥ・ソレイユの社長に会って、『アバター』のフッテージを披露したんだ。そして『もし、この映像が気に入ったら、3Dドキュメンタリーをやりませんか?』と持ちかけた。その数年後、彼らのほうからアプローチがあってね」

――アンドリュー・アダムソンを監督に起用したのはあなたですか?

「いや、僕が正式に参加したときに、すでにアンドリューは決まっていたんだ。実は、ぼくは3Dカメラ機材の提供を頼まれただけなんだ。僕はビンス・ペイスと共同で、キャメロン・ペイス・グループという会社を持っているからね。そのとき、僕のほうから、ついでに映画のプロデューサーもやりますよ、とオファーした。そうすれば、こちらは完璧にサポートできるし、向こうも余計な機材費を払わなくて済む。僕らにとってみれば、この企画で金儲けをしようという気はさらさらなかった。面白そうな企画だし、金なら『アバター』でたっぷり稼いでいるから(笑)」

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――そりゃそうですよね(笑)

「僕からの唯一の条件は、僕にカメラマンをやらせてくれ、ということだけで」

――え、あなたがカメラマンをやっているのですか?

「今回は、実際のショーを撮影したので、多いときには18台の3Dカメラを同時に回していた。この映画では、ラスベガスで行われている7つのショーが描かれるが、ぼくは『エルヴィス』と『ズーマニティ』以外のショーで全てカメラを操作している。『O』のためには、新型の水中システムも開発したほどで」

――プロデューサーですから、ベストポジションを選ぶことができますよね。

「もちろん(笑)。『Ka』では、二つの輪がついた大車輪がぐるぐる回る場面があって、あれをハイアングルからスローモーションで撮る映像があるよね?」

――え、まさか……。

「あれを撮ったのが、僕だ。天井からぶらさがって撮った。最高にクールだったよ」

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――パフォーマー並みの苦労をしているんですね(笑)。

「『O』では、自分の出番の最終日に、プールに落とされるというしきたりがあるんだ。撮影最終日、僕はファイヤーダンサーの二人に抱きかかえられて、プールに投げ込まれた。『O』のファミリーだと認めてもらえたのかもしれないね(笑)」

――ストーリーや演出について、アダムソン監督になにか助言しましたか?

「それはいっさいない。これはアンドリューの映画であり、僕は単なるプロデューサーだ。これまでに、キャスリン・ビグローの作品を2つ、スティーブン・ソダーバーグの作品をひとつプロデュースしているが、僕はクリエイティブ面において口出ししていない。これまで、監督としていろんなプロデューサーと仕事をして、優秀なプロデューサーとは、監督を最大限サポートし、監督のビジョンの実現に尽力する人であると学んでいるからね」

――プロデューサーとして、また、カメラマンとして、この映画で伝えたかったことはなんですか?

「それはやはり、パフォーマーの魂に尽きるね。彼らの表情や屈強な腕や脚、身体能力、美しさを、ありのまま伝えたかった。人間が生み出す究極のパフォーマンスを称賛したかった。ここにはビジュアルエフェクトはいっさいない。生身の人間が、不可能とも思える偉業を軽々とやってのける。ライブで見ていると、息を飲むような瞬間がたくさんあるよね。あの迫力をなんとしても映画で再現したかったんだ」

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――「アバター」が公開されたあとは、すべてのメジャー映画が3D化すると期待されていたのに、実際はそうでもありませんね。

「3Dでの撮影は高価だという誤った印象が広まってしまっていることが原因だ。『アベンジャーズ』なんかは大好きな映画だけれど、あいにくコンバージョンだった。ああいう映画こそ、3Dで撮影されるべきだ。実際、良質のコンバージョンにはお金がかかるし、3Dで撮影したほうが安あがりだ。カメラ機材にしても日進月歩していて、いまでは必要なスタッフの数も減っているしね」

――あなたの目から見て、優れた3D映画はどれですか?

「『ヒューゴの不思議な発明』だ。あれは3D映画の最高峰だね。世界的な映画作家が3Dを駆使して、これ見よがしではなく、より良いストーリー描写に利用している。深度の生かし方などは、『アバター』よりも素晴らしいと思う。もうひとつ欠点なしに素晴らしいと思うのは、『プロメテウス』だ。これもリドリー・スコットという世界的な映像作家が、3Dの魅力を存分に引き出している。ただ、あいにくあの映画はウチのシステムじゃない。なのに、先日一緒にディナーをした際に、3Dカメラの重さについてクレームをつけてくるんだ。70ポンド(31キロ)もするなんて重すぎるって。こっちのシステムを使ってくれれば、28ポンド(12.7キロ)で済むのに。どうして前もって相談しないんだっていう(笑)」

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――いま『アバター』の続編2作の準備の真っ最中ですが、どうして新作ではなく続編を作り続ける道を選んだのでしょうか?

「ひとりのストーリーテラーとして、僕が伝えたいことはすべて、あの物語世界で伝えることができると信じているからだ。ぼくは、世界を変えようとしている。人類が世界に対する見方を変えなければ、自然は滅びてしまう。アマゾンの熱帯雨林では、毎年メイン州と同じ広さの森林が伐採されている。もうあまり時間は残されていない。いまこそ行動を取らなくてはいけないと思うし、『アバター』シリーズほど発信力のある作品もない。『アバター』の人気を利用すれば、メッセージを広く、長く伝えることができると信じている。ぼくが『アバター』を作り続けるのは、青い人間が好きだからじゃない。森林破壊や環境問題について、自分なりの考えを伝えたいからだ。そのためには、前作と同じだけ娯楽性たっぷりの作品に仕上げなくてはならないと思っているよ」

――噂では『アバター4』の可能性もあるとか。

「ありえるね。でも、まずは『アバター2』と『アバター3』だ。この2つは同時に製作するから、たとえ『アバター2』が大コケしても、『アバター3』は公開されることになる(笑)」

――他の監督の作品をプロデュースすることは続けますか?

「プロデューサー業は引退だ。ただ、ドキュメンタリーは今後も続ける。海洋探検や環境保護、あるいは、再生可能エネルギーなど、自分にとって重要なテーマはドキュメンタリーで発信していく。でも、ハリウッド映画に関する限り、『アバター』1本でやっていくつもりだ」

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