「感情と意志」脳男 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
感情と意志
2013年の作品
この作品は当時のエンタメ小説を究極まで煮詰めた感がある。
しかし原作とは多少違うようだ。
「脳男」
感情がないと思われた男 イリスタケキミ
財を築いたタケキミの祖父は、息子夫婦がひき逃げされたことと残されたタケキミの奇妙な精神状態に、人を使ってタケキミを訓練し始めた。
実際感情を失ってしまっていたのは祖父だったのかもしれない。
ひき逃げ犯に対する憎悪が、いつの間にかすべての悪に対する憎悪に変わってしまう。
その悪をせん滅するために「スズキイチロウ」を作ったのだ。
しかし山岳トレーナーのイノオは言う。
「人間らしい感情は見受けられないが、自分自身の意志を示した」
リスを手に乗せるタケキミ それを掴みたたきつけて殺す祖父
感情の揺らぎ 悪をせん滅する使命
屋敷で起きた強盗による放火から、自分で始めた悪のせん滅
この作品は、感情のない人間の行動基準を、与えられた使命と感情丸出しの精神科医ワシヤマリコによって描いている。
そして、タケキミという人物の背景と感情のない彼の無表情を「行動」で表現させている。
さて、
幼少時に殺人を犯した緑川ノリコ
友人の水沢ユリア
この二人の連続爆破事件の根拠が希薄すぎ、派手なアクション馬ばかりが目立つが彼女らの動機がわかりにくい。
最後に茶屋が緑川に銃弾数発をぶち込んで射殺するが、そのあとタケキミにも引き金を引く。
彼の心情がそこでよく表現されていた。
しかし、志村の再犯に気づいたタケキミは、志村に何を感じたのだろう?
感情を持たない男には、まるで機械のように人間の感情の揺らぎを関知するのだろうか?
このあたりの設定は興味深いものがあった。
また、
志村の再犯によって、マリコの推していたナラティブプログラムなるものの信頼が失墜する。
このあたりの追い込み方も面白かった。
まだ何も解決されていないことが伺える。
タケキミの「先生の過ちを見逃すわけにはいかないんです」と言った根拠はどこにあったのだろう?
彼は「志村の腕に子供の歯型を見た」と言っていたので意味は分かるが、そもそも志村の再犯を関知していたのだ。
そうであれば、彼女のプログラムにそもそも問題があったことになる。
タケキミは「先生は僕のために泣いてくれた唯一の人だったから感謝している」と言った。
彼は「答え」を教えてくれないのだ。
ずっと嫌がっていた母の新しい治療法 ナラティブプログラム
母はニュースで志村が逮捕されたことを知り、「それをやってみようかしら」というが、そもそも無理になってしまった。
このすれ違いもこの作品の面白さだろう。
連続爆破テロ犯の緑川と水沢 よくわからなかった彼女らの思想 動機
後天的理由で鬱となった人々を助けるための新しい治療法 その欠陥
罠にかかりまくる警察
警察の手から逃げたタケキミ
解決したことなど何もないように思うが、ある種の正しさがあるとすれば、タケキミの思考だろうか?
おそらく感情がない訳ではない彼の思考は、正しいのは何かと自分自身に問いかけながら決めていくのだろう。
それが彼の「意志」
ある意味機械のようでもあり、ダークヒーローの新しい形かもしれない。
何も解決されない中でもひとつひとつ使命を実行していく意志は、今でも人々が彼の存在を求めているように思う。
面白い作品だった。