私はモスクワを歩く

劇場公開日:

解説

カルトSF映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」で有名なゲオルギー・ダネリア監督が、モスクワの平凡な若者たちの生活を瑞々しく描き、カンヌ国際映画祭で絶賛を浴びた青春映画。後にロシアを代表する映画監督となるニキータ・ミハルコフが俳優として出演している。

1963年製作/73分/ソ連
原題または英題:I Walk Around Moscow
配給:ロシア映画社
劇場公開日:2003年9月20日

ストーリー

昨日までまったく面識もなく、数千キロも離れたところで生活していた2人が、偶然地下鉄の同じ列車の中に隣り合せて乗っていた。2人は同じ年頃の若者で、自分ではすでに大人のつもりだが、まだ子供である。モスクワ生まれのコーリャは地下鉄の工事現場で働いていて、ちようど夜勤を交替して家に帰るところだった。もう1人のワロージャは、シベリアの奥地に住んでいる。旅行の途中に一日だけモスクワに滞在する予定で、たった今、飛行場に着いたばかりだった。コーリャの親友サーシャは婚約者と口論しながらも、黒い礼服を買い、5時からその服を着て結婚式を挙げることになっている。アリョーナは、デパートのレコード売り場の可愛いい売り子だ。この4人がいつしか出会い、いつもと違う慌しさに巻き込まれていく。コーリャは遠来の客ワロージャをもてなしたり、友人のサーシャが結婚式を前にして軍から召集命令が来て、軍事部に行って延期を願ってやったりと大活躍。デパートでは、アリョーナがコーリャとワロージャとの心を一ぺんにとらえてしまう。ワロージャは雑誌に短篇小説を発表したことがあり、それがある有名な作家に認められたので、コーリャと連れだってその作家を訪ねる。扉を開けてくれた床磨きの男を二人は作家と思い込み、感激して話に耳をかたむける。コーリャはアリョーナの気をひくため催眠術ができることを自慢するが、催眠術の実験がもとで、泥棒騒ぎにまき込まれ警察につかまってしまう。どうにか事件も終って、4人は、サーシャの結婚式に集まる。もめにもめた結婚式もどうやらめでたく挙行され、愉快な一日が終わるのだった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.5I Walk Around Moscow

2022年10月13日
iPhoneアプリから投稿

『不思議惑星キン・ザ・ザ』で有名なゲオルギー・ダネリヤだが、それ以外の作品については全くといっていいほど知られていない。というか上映も配信もされていないから観る手段がねえ!

見たいな〜見たいな〜と思っていたところ、国内の名作映画をボコスカ無料でアップしまくるロシアのアート系YouTubeチャンネルの中に本作を発見した。英語字幕しか用意されてないけど自動生成の怪しい訳でも構わないなら日本語でも見ることができる。意外と見れちゃうんだなこれが。

私はモスクワを歩くというタイトルが端的に示す通り、本作は幾人かの青年にそれとなくスポットを当てながらモスクワという巨大な街の素朴な一日のスケッチを試みている。

したがって当然話の筋というものはなく、さまざまなできごとがほうぼうで脈絡なく展開していくのだが、その一筆一筆がモスクワの輪郭の一端をそれぞれ描き出している。これがまた陰惨とか気鬱とかいった世間一般的なロシアのイメージとはえらく懸隔があって驚かされる。

特に赤の広場なんかは陽光がそこらじゅうにきらきら反射していて、その安穏な風景の中を間の抜けた鐘の音が響き渡っている。処刑だの軍事パレードだのそういう血生臭いイベントばかりかと思っていたが、全くそんなことはないんだな…

他にも小説家のふりをする掃除夫とか、青年のテレパシーでこちらを振り向く老紳士とか、絶妙に魅力のある人々がたくさん出てきて楽しかった。兎にも角にも人と人との距離が近いんだよなあ。見知らぬ中年女性を呼び止めて「ちょっと代わりに電話してくれませんか?」とか日本じゃあり得んよな。

全体を通じて牧歌的なつくりではあるものの、一族の男を軒並み戦争で失った老婆や、これから戦役に向かう青年などの存在がひっそりとロシアという国の抱える暗部を示唆しているようにも思う。そのあたりを肩肘張らずに描き出せるのが稀有だ。この作風が後の『キン・ザ・ザ』に繋がっていったのだと思う。

青年が歌いながら駅構内のエスカレーターを上がっていくシーンがとても印象深い。駅員が歌っている彼を一瞬呼び止め、音楽が止み、一瞬の緊張が走る。ほどなく駅員の誤解は解けるが、音楽は止まったまま。無言でエスカレーターを上がる青年に、駅員がもう一度声をかける。「歌い続けてください」。青年は再び歌い出す。そして仰角のカメラの画角を飛び出し、どこかへと向かっていく。ここでカメラが追いかけないのが本当にいい。彼はこれからも好き勝手にモスクワの街を歩き回るのだから。

カメラワークが素晴らしいのはさすがのソ連映画といった感じ。カメラを向けられたモスクワの街はまるで踊り跳ねる一匹の巨大な生き物のようにも見えた。『鶴は翔んでゆく』や『炎628』もそうだけど、やっぱりソ連映画はカメラが良いですね。エイゼンシュタインを輩出した国なんだから当たり前といえば当たり前だけど、それがきちんと継承されているのがすごい。

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因果

5.0明るく楽しい73分の青春モスクワ観光

2019年4月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

ソビエト映画は、暗い、重い、長いと言うイメージだが、こんなに明るく楽しい一日を、描いた青春映画もあるのかと感心した。

3人の若者の出会いと恋、結婚のドタバタ、そして別れの一日かユーモアを交えて軽快に描かれる。

ラストに主人公の青年が、深夜の地下鉄の駅で、唄いながら去って行くところなど、とても多幸感がある。

1963年当時のモスクワ風景も新鮮で、観光映画の趣きもあり、また見たいと思わせる魅力がある。

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