シンドバッドの冒険

劇場公開日:

解説

チェコ・アニメーションの創設者のひとりとして知られる巨匠カレル・ゼマンが、アラビアンナイトに登場する船乗りシンドバッドの冒険を、色鮮やかな7つの短編でエキゾチックに描いた切り絵アニメーション。

大海原を旅する船乗りシンドバッドは、異国を訪ねる途中で様々な驚きに遭遇する。風変わりな味方や協力者たちに助けられながら旅を続けるシンドバッドだったが……。

2022年に特集企画「チェコ・ファンタジー・ゼマン!」で上映され、2024年に再び行われる「チェコ・ファンタジー・ゼマン!2024」(24年11月16~29日、新宿K's cinema)でも上映。

1974年製作/94分/チェコ
原題または英題:Tisic a Jedna Noc
配給:アンダソニア
劇場公開日:2024年11月16日

その他の公開日:2003年8月30日(日本初公開)、2022年4月26日

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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(C)KRATKY FILM PRAHA

映画レビュー

4.0アラビアンナイト。

2022年5月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

空飛ぶ絨毯もツボに閉じ込められ魔人も登場するシンドバッドの冒険。切り絵アニメーションらしい。CGアニメを見慣れているぶんとても新鮮、かつ、魅力的な絵の動きと懐かしい色彩が見事。が、90分み続けるのはちょっと長かったかなー。見応えありだけど…ね。

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peanuts

4.0カレル・ゼマンのアニメーションのなかでも最も明朗でとっつきやすい愛すべき一本。

2022年5月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

無条件に楽しかった。
新宿K’sシネマのカレル・ゼマン特集上映の二日目の2本目、総計5本目の視聴。
同じ日の上映で、一本前の『ほら男爵の冒険』も、一本後の『狂気のクロニクル』も、面白さ云々はさておき、結構眠たくなるような時間帯があったのは確かだが、この『シンドバッドの冒険』だけは、最初から最後までしゃっきりした頭で観ることができた。

明快に児童をターゲットにしたわかりやすい作りのうえ、話を小エピソードの集積として連作短編集のように組み立てているので、観ていて飽きが来にくい。
各話の出だしで、シンドバッド自身による詳細なナレーションが入るから、どういう話か捉えがたいといったことも一切ない。その割に話が興に乗ってくると、一切のナレも台詞もオミットして、絵と作劇の力だけで見せるような「アニメらしい」時間帯も頻出する。
アニメーションとしては簡素な切り紙アニメだが、そのぶん誰が見ても理解できるすっきりした絵作りが貫かれている。吊り目ぎみの東洋的な顔立ちの絵柄と背景の素材となっているのは、ペルシャじゅうたんに織り込まれた絵柄と模様だろう。

お話は、まさに「シンドバッドの冒険」であり、衒いがなく、ストレートに面白い。
われわれの世代は、日本アニメーションのTVアニメ『アラビアンナイト シンドバットの冒険』(1975~76)でこの主人公の名前を知った人間が多いと思うが、個人的には本でちゃんと読んだことはないし、しょうじき何がシンドバッドの話で何がアラジンの話かすらよくわかっていないというのが本当のところだ。
でも、今日観た7つのエピソードは、いずれもアラビアンナイトらしい突飛さと、残忍さ、自由さ、おおらかさにあふれていて、実にわくわくさせられた。
沈没して、島に流れ着いて、不思議なことが起きて、いったんは良い目を見たりもするのだが、最後は命からがら身一つで脱出する、というのがひとつのお話の定型で、ちょっと『銀河鉄道999』や『キノの旅』にも似た、「旅ものの『世にも奇妙な物語』」感がある。作り自体はどの話も似ているが、扱われている内容には一定のバラエティが担保されていて、目先が変わって飽きさせない。

最大の特徴は、動物が大活躍する点。特に、「鳥」がもう一方の主役といってもいいくらい、さまざまなエピソードで重要な役割を果たす。
鳥のなかでも象徴的な役割を与えられているのが、カモメだ。見た目、ユリカモメの夏羽に見えるが(ズグロカモメはアジアにしかいないはず)、群れ飛ぶ姿が船乗りの自由と幸運の象徴として、常に重要なポイントや各エピソードのラストで登場する。
それから、鎧兜を身に着けて拘禁される主人公を助けに来るオウム、巨大な卵をあたためてシンドバッドの隠れ蓑になるロック鳥、シンドバッドを執拗に追い回す鷲、そのほか、ナイチンゲールやフクロウ、カラス、フラミンゴ、ショウジョウトキなどが登場する。
動物では、ライオン、ワニ、ゾウ、馬、キリン、巨大亀、トラ、カバ、魚、タコ、猿などが活躍する。
とくに、猿芸を人間に仕込もうとする猿軍団の話は、実に皮肉が利いていて風刺的だ。
動物を扱うに際しては、つねに寓話性を前面に押し出しつつも、一定のリアリティが、生態上も外見上も納得がいく形で付与されている(伝説上のロック鳥ですら、ワシタカ類をベースにした実在感のある造形が成されている)。たぶん、この人の「美学」と「創作」のベースは「自然」に立脚しているということだろう。

なんとなく記憶しているエピソードは以下の通り(順番とかちがってるかも)
●真珠をくれる魚と王宮生活、拘禁とオウムの助けによる脱出
●Vsライオン&ワニ、ロック鳥、馬の格好で王仕えとか
●青鬼老人の「おぶってお化け」(ちょっとサイコ・スリラーっぽい。あと『JOJO』のチープトリックとか)、巨人の島での闘い、水中の支配者と子守歌
●猿の島(人間が猿に調教される逆転の発想)
●金の無限に出てくる財布と金貨島の最期(いかにも松本零士が書きそうなネタ)
●魔法の絨毯を馬と交換でゲット(魔法の絨毯といえば『アラジン』だが、共有ネタ?)
●魔法の精と王女への求愛、海辺でのハッピーエンド(これも『アラジン』で同じ話やってたよね?)

とにかく、まずは「海へのロマン」がつまっているのが、千夜一夜っぽい。
最初あたりのエピソードのラストで「海はもうこりごりだ」とか述懐しているのに、シンドバッドは結局いつも海に還ることを選択する。彼は生粋の船乗りなのだ。海上での冒険、海中での冒険。地上での冒険も結局は海を終着点として終わる。
それから、シンドバッド自身が適当なことをやったせいで事件がこんがらがってしまっている割に、結局シンドバッドだけが助かって、同行者である仲間は全滅して果てるようなシビアな展開が繰り返されるという、ある種の非情さも、千夜一夜っぽい。
あと、やっぱり「財宝探し」という表テーマと、その裏テーマとしての「財宝より大切なもの」を選択する展開、あるいは恋愛至上主義的な物の考え方が、千夜一夜っぽい。

多少は毒もあれば残虐さもあるアラビアン・ナイトの世界を、すっきりしたクセのない絵柄と、ちょっと困ったような八の字眉で、どこかほのぼのとした味わいの児童向けアニメに仕上げている。
世間的には、実写と特撮・アニメを混淆した「ゼマンらしいスタイル」の諸作や、同じ児童向けアニメーションでも、より「陰り」の強い『クラバート』や『ホンジークとマジェンカ』の方を推す声が大きいかもしれないが、この『シンドバッドの冒険』の完成度も、決して負けていない。
何より創作過程において、「我欲」「自己顕示欲」より、「子供に愉しんでもらう」ことが最優先にされているのが、実に清々しいではないか。もっと知られて良い作品だと思う。

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じゃい