「アウトサイドストーリーとして見るなら秀逸」WXIII 機動警察パトレイバー mikistoriさんの映画レビュー(感想・評価)
アウトサイドストーリーとして見るなら秀逸
初見はかなりの昔で、肝心の特車二課の出番が少ない。ある程度結末へのストーリーが読める時点で退屈な印象しかなかった。かなり年数が経って見返すと、映画としてはかなり完成度が高いことに気づいた。
渋い人間ドラマ。緊迫感のある中盤のモンスターパニックに海自の追撃戦そしてクライマックス。
のめり込んで見てしまった。視点が特車二課ではなく、【刑事課からアプローチしたパトレイバー外伝】と考えるべきだろう。雑誌ならば、人気シリーズの【外伝読み切り長編】という立ち位置だ。
それならば、こういう形のアプローチは決しておかしくない。なじみの主役がほぼ出ない【外伝】なんてよくある話だ。しかしそれに文句つける読者はいない。オリジナルシリーズアニメ(パトレイバーはメディアミックスで、ゆうきまさみ氏のみが原作者ではない。彼はヘッドギアの一員だっただけだ)では、ただ、非常に珍しかっただけだ。
だからそれだけで酷評の対象になるのは少し勿体ない。
少ない時間の中でもオリジナルキャラ達のキャラ立てはしっかりしていて、全員完璧な人物じゃないからこそ、ある程度、「あるある」と感情移入できる作りになっている。久住・秦。どちら寄りになるかでも世代間で差がでる。ミステリアスな冴子は、黒幕の一人ながらも、かなり多面な顔を見せる女性キャラだ。科学者・非常勤講師・寡婦で母・・・そして女性。正気と狂気。虚無と生気の間を常に往来する。死んだ我が子の細胞を保管するまではまだ遺髪と同じく許容範囲でも、それを実際に培養し掛け合わせてキメラを生み出してしまった時点で後戻りできなくなってしまった。
なまじ遺伝子工学の科学者だったために起きてしまった悲劇だ。ネクロマンサーの一種だとしても子供はこんな生は望むまい・・・。
針の壊れたレコードプレーヤーの様な心理状態の彼女が唯一、前に進む兆しが見えていたのが秦との逢瀬の時間だっただけに、結末が見えていたから余計にやり切れない。喪失の三年間は彼女には長すぎた。もっと早い段階で彼と出会えていたら、まだ違っていたはずだ。(しかも出会ったのが、よりによって、墜落事故後日、深夜、海にニシワキトロフィンを密かに餌付けした直後の昼だったというのが、もう・・・・)
悲恋バートもさることながら、久住・秦を軸に、体制の上部と現場での齟齬・建前と本音。それを入り混じった捜査パートも面白かった。人間関係とそのやり取りから切り込んでいくベテランの久住。後藤もこちらよりの人間だ。一方、詰めの甘さと未熟さはあるものの、デジタル分野では明らかにベテランを凌ぐ秦(二課の若手もこちら側だ)。
実際、ポリティカルな分野でまんまと体制(一企業だけじゃなくて裏に米国軍部+自衛隊の関与国家の暗部が見え隠れしている)にしてやられた感のある現場の久住・後藤らだが、
現場に居合わせた名もなき若手世代が密かに一矢報いている。情報操作と物証隠滅を完全に図ったつもりが、ネットのアンダーグラウンドで密かに問題の事件映像が流出していた。某掲示板でまことしやかに語られている噂話。あれを密かに撮影してリークした者は誰か。それこそ体制が使い捨て可能と軽んじている現場だ。居合わせた警察関係者といっても、現場で命がけの大立ち回りしていた秦や野明ではないだろう。あそこで唯一それが可能だったのは、完全に石原一佐でもノーマークだった、現場の少し外側の、安全圏でトレーラーと待機していた特車二課整備班の若手だけだからだ。(実際にちゃんと待機している描写がある)誰の命令でもなく、完全にスタンドアローンでやったことだろう。何故かといえば、到底、現場は納得できないからだ。
後藤や久住の世代では思いつかない方法だろう。そして新しい形の抵抗手段でもある。
気づいた場所から次々削除に回っても、一度ネットの大海に放たれた情報は無限に増殖して消せない。
現実もそうなっているように。